山椒しびれる辛ウマ激戦地 東京・神田個性派ラーメン
サラリーマンの町、東京・神田には辛くてうまいラーメン店が集結している。いずれも刺激たっぷり、個性を競う味だ。梅雨を乗り切ろうと辛ウマラーメン巡りに飛び出した。
山椒のしびれ、麺は3種混合
2009年に人気店、麺屋武蔵出身の三浦正和さん(46)がJR神田駅北口に出店した「鬼金棒(きかんぼう)」。代表メニューはカラシビ味噌らー麺で山椒(さんしょう)好きの三浦さんが「担々麺ではない、山椒を使った独自ラーメンを」と唐辛子の辛さと山椒のしびれを前面に創作した。


金棒に見立てたヤングコーン増しを食べてみた。まさに複雑系の味。麺は中太、中細、細の3種をあえて1玉に交ぜ、食感の違いを楽しめる。スープのベースは信州の味噌の甘み。客は「カラ鬼増し・シビ普通」などと辛さとしびれを各5段階から選ぶ。
「唐辛子は基本味が4種類。増しにするときは別の3種類のブレンドを重ねる」と三浦さん。ほろほろに崩れるチャーシューからは八角の香り。分厚いうまみの要素が絡み合う一杯だ。
名古屋めしの代表の一つ、台湾ラーメン「郭政良 味仙(かくまさよしみせん)」が3年前、東京進出の地に選んだのも神田だった。「台湾ラーメン」で汗をかき、ストレスを流してもらう。それにはサラリーマンの集うこの町が最適」と同社。今は神田店と神田西口店の2店ある。
しょうゆや唐辛子とスープで何時間も炊いた豚肉ミンチがうまみの源泉だ。麺を持ち上げると辛い熱気とニラの香ばしさがガツンと来る。麺に絡んだミンチの辛うまいこと。すすっていくとさらに辛さが高まる。一気に食べ終えた。神田の店は本店より刺激を強めに調整しているとか。
「汁なし」人気、食感楽しむ
「雲林坊(ゆんりんぼう)」日本橋室町店はマーボー豆腐と汁あり、汁なしの担々麺に特化した店だ。汁ありは爽やかな香りを感じる。赤山椒と青山椒を混ぜ、調味料はほぼ手作り。ラー油は唐辛子をこさずに粒を残している。もやしと青菜の漬物のシャキシャキ感と全粒粉の麺がスープに負けずに力強い。


「担々麺」と書いた特大の看板を掲げる「辣椒漢(らしょうはん)」はカウンター8席のこぢんまりした店。香港駐在の会社員だった岡田健一さん(47)が研究を重ねて7年前に開いた。客の6~7割が頼むという正宗担々麺(汁なし)を味わうと、山椒の香り高さに驚く。ミル入りの山椒が置いてあり、追加できるのがうれしい。
漢源花椒(かんげんかしょう)を使ったプレミアム正宗担々麺、最高級の花椒、大紅袍を使った麻辣麺には「マニア用。初めてのお客様にはお勧めしない」とあるが、何度も通う客が多い。
神田駅前すぐの「ほうきぼし+」は50年以上続く中華料理店だったが、オーナーの娘が東京都北区に出して人気を呼んだ担々麺を"逆輸入"してラーメン店に改装した。汁なし担々麺は太麺の存在感と肉味噌の甘みのバランスが取れた一杯。具の揚げた麺が独特の食感を加える。


「麺は昔ながらの製麺機で自家製。卓上のニンニクチップをいれるのがおすすめ」と店長の稲垣尚さん(52)。夏には豆乳入りのマイルドな担々つけ麺が登場するので試したい。
「辛ウマラーメンが集まる神田で勝負がしたかった」と話す「覇王」は2018年12月オープン。マーボー豆腐の名店、四川飯店で料理長を務めた佐崎佳次さんが腕を振るう。
1番人気の担々麺黒は白い四角の皿に黒い丼で運ばれてきた。意外なことにフーフーと冷ますような熱々ラーメンではない。「酢を筆頭に、スパイスの香りは沸騰させれば飛ぶ。80度手前ギリギリで調理する」。じわりと後から辛さがやってくる。
辛ウマをキーワードに集積、競い合う。東京・神田にますます足が向きそうだ。
(田中映光)
[日本経済新聞夕刊2019年5月25日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。