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松坂は悪くない 行き過ぎた「管理」の弊害

中日の松坂大輔が渦中の人になっている。右肩痛からの復帰を目指すさなか、チームの練習日にリハビリ先の千葉でゴルフをしていたことが問題視され、球団から処分が科された。球団による選手の管理に関わってくる話だが、松坂の件を論じる前に、まずは管理を巡る私の経験談から紹介したい。

チームの練習日にゴルフをして球団から処分が科されたことを受け、取材に応じる中日・松坂=共同

1985年、中日から移籍した西武は広岡達朗監督の管理野球のまっただ中だった。遠征先では門限が厳しく、宿舎での食事は肉こそ出たものの、野菜が中心。晩酌は認められなかった。東尾修さんはアルコールがないとご飯が食べられない人で、必ず外に食べにいっていた。春季キャンプでは多くの選手が、やかんに入ったビールをお茶に見せかけて飲んでいた。

試合前の食事で出たのはバナナとスープ、具材のないパンのみ。中日時代は色々なものが出て、都裕次郎などは「腹いっぱいじゃないと投げられない」と言ってたらふく食べていたが、西武ではそうはいかない。機敏に動けるようにとの意図があったのか、広岡さんは試合前はあまり食べさせなかった。対照的に、87年に西武から移った阪神では食べ放題。キャンプでも差し入れのビールやらワインやらが食堂にずらりと並んでいて、飲み放題だった。

西武の「管理」と阪神の「放任」の両方を経験して思うのは、阪神の方がプロだったなということ。いくら食べても飲んでも構わないが、それでパフォーマンスが落ちて成績が伴わなければ、責任が全て自分に来る。一見、選手に優しいようで、逃げ道をつくっていない点で厳しさがあった。

広岡さんの硬軟織り交ぜた人心掌握術

中堅やベテランは息苦しさを感じるところがあった当時の西武だが、まだ自らを律することができない若い選手には、広岡さんのやり方は必ずプラスになると思ったのも確かだ。遠征先でデーゲームを終え、食事に出たときのこと。翌日にかなりの確率で雨が降ると知った私は「明日は中止」と決め込み、午後10時の門限を2時間ほどオーバーして同僚たちと宿舎に戻った。

手ぐすね引いて待っていた長池徳士コーチがすかさず「処分」を下す。秋山幸二には「腰が悪いとトレーナーから報告が入っているのに門限を破ったから、罰金」。私と駒崎幸一にも罰金が科され、駒崎に至っては「2軍に落とす」とまで言う。

たまらず広岡さんの部屋を訪ねた。「監督、僕が駒崎を連れていきました。明日は雨だと思い、遅くなってもいいかと判断しました」と言い、2軍降格を取りやめるよう頼んだ。だが、広岡さんは「いや、こういう若いやつが門限を破っちゃ困るんだ。まだ戦力とみなせないようなやつがルールを守れないのは良くない」と受け付けなかった。もっともだ。失態をわびて部屋を出た私は「下で頑張ってこい」と駒崎を励ました。

ところが、そこから約1カ月間、広岡さんは駒崎を2軍に落とさなかった。堅物といわれた広岡さんだが、温情も持ち合わせた人だった。82年からの在任4年間で3度のリーグ優勝、2度の日本一を達成できた背景には、そういう硬軟織り交ぜた人心掌握術があった。

さて、松坂である。本来なら名古屋で練習するところを、本人の意向で関東でのリハビリを許されていた。横浜高と西武で長く過ごしただけに、慣れ親しんだ関東の施設でリハビリに専念することが復帰への近道と思ったのだろう。チームから離れたということは個別のスケジュールで活動することを許されたわけで、参加義務のない練習があった日にゴルフをしたことは何ら問題がないと思う。当日はしっかりリハビリもしたというからなおさらだ。

2月のキャンプで右肩を故障して以降、初めて打撃投手を務める松坂=共同

球団から「ゴルフ禁止」と言われていたわけでもなさそうで、そこで処分が下ったのはどういうことか。「いかがなものか」という世間の声に球団上層部が過敏に反応し体裁を重んじた、というのが実情なのではないか。中日の先輩の星野仙一さんが存命だったら「何が悪いんや!」と松坂をかばっていたかもしれない。そういう懐の広い人が減った。世の中が世知辛くなっているから仕方がないのかもしれないが。

ゴルフを道楽と捉える見方が根強くあることも影響しただろう。米大リーグではキャンプ期間中、全体練習に個人練習、ウエートトレーニングをこなしても昼ごろには練習が終わり、そこからゴルフに行く選手がいる。ゴルフはトレーニングの一環、リフレッシュ効果もあるという認識が根付いているように思う。それに対して、日本はいかに遅れていることか。

おおらかな時代、門限破り気付かれず

西武時代の86年、夏に入って調子が落ちていた私は、その年就任した森祇晶監督に「1週間走り込もう」と言われてスタメンから外れたことがあった。試合の初めから出ないのは心身ともにずいぶん楽なもの。走り込みを中心に一日を過ごして東京での試合が終わった夜、1学年下で打撃投手の根本隆と六本木に繰り出した。ものまねの舞台を見られる店で長い時間を過ごし、外に出るとすっかり明るくなっていて、セミが鳴いていた。

その日、根本が「田尾さん、昨日の店、面白かったですね」と言うので「また行きたいの? 行くか?」。結局、2日連続で行くことになった。「その代わり、きょうはセミが鳴く前に帰るぞ」と言って入り、店を出たらまたセミが鳴いていた。

ここで、今回の松坂のように週刊誌に直撃されていたら「セミが鳴くまでには帰ろうと思ったんですけどね。やっぱり夏のセミは早起きですね」などと軽口をたたいてしのいだことだろう。もっとも週刊誌に取材されることもなく、チームの誰かに門限破りを気付かれることもなかった。真面目な根本と一緒だったから、明け方に帰っても「朝早くから散歩に行っていたんだな」と思われたようだ。

何事にもおおらかだったあのころを思うと、今は何かあるとすぐに揚げ足を取る風潮があり、何ともさみしい気持ちになる。厳しくも温かいファンの目はありがたいが、行き過ぎた管理の目は選手のためにならない。

(野球評論家)

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