2019年6月16日(日)

新興企業のチーム形成支援 元ガリバー吉田氏の手腕

日経産業新聞
コラム(ビジネス)
スタートアップ
2019/5/24 4:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

事業が軌道に乗って「成長期」に入ったスタートアップ企業の多くが共通してぶつかる壁がある。組織を拡大するにつれて、創業当初のビジョンや情熱を全社で共有するのが難しくなってしまうのだ。そんなスタートアップ各社を支援しているのがIDOM(旧ガリバーインターナショナル)元専務の吉田行宏氏。「成長痛」を和らげるノウハウを伝授している。

「経験豊富な吉田さんと組めば、絶対成功すると思った」。理系人材と企業をマッチングするPOL(東京・中央)の加茂倫明社長はこう話す。加茂氏は東京大学に在学中の2016年に同社を設立したが、単なる学生起業ではなく、吉田氏との共同創業を選んだ。

同社の1万人を超える理系学生が登録する人材データベース「ラボベース」は利用企業が126社に達している。

さらには国内大学の研究者29万人の情報を集めた「ラボベースクロス」の運用も始めた。企業に共同研究の相手を紹介し、産学連携を促す。

■対等な立場で

24歳の加茂氏と60歳の吉田氏は親子ほどの年の差だが「上からの目線ではなく対等で議論し、助言をくれる」という。

高校時代に起業を志した加茂氏だが、イベントで出会った吉田氏に相談するなかで現在の事業に行き着いた。「同じ覚悟の仲間を早期に集めることの大切さを教えてくれた」と感謝する。そんな吉田氏とは、どんな人物なのか。

吉田氏は1994年に中古車販売のガリバーインターナショナルが設立された当初のメンバーだ。社員わずか数人のころから創業者を支え、自社サーバーの整備やフランチャイズチェーン(FC)などを担ってきた。

同社は創業から10年で売上高が1000億円を超えるほどの急成長を果たしている。

2012年に専務を退任するまで役員として財務やマーケティング、新規事業など多くの領域を指揮した。特に力を入れたのが組織づくりだ。

ガリバーでも社員が2000人規模に増えたころから、組織の活力低下が気になり始めた。「何でも上が決めてしまっては、社員が考えない組織になる」。吉田氏は、そう実感した。

そして吉田氏がたどり着いた理想像が、全員が社長のような組織だった。「全社員が経営者のような当事者意識を持ち、自ら積極的に動くチームを作ることが必要」。こんなことをスタートアップ各社に説いている。

創業メンバーだけで運営しているうちは、全員が経営陣に近い意識を持ちやすい。しかし社員数が百人を超えるような規模になれば、全社員に創業当初と同じ意識を持たせるのは至難の業だ。

それでは組織が活力を失わないために、スタートアップの経営陣は何をすればいいのか。

■全員に目標の浸透を

まず吉田氏が勧めるのが、全員に会社の存在意義や目標を浸透させる仕組みづくりだ。「形式化しやすい朝礼や日報も、社員が自発的に書く仕組みにすれば業務の意味を考えるきっかけにできる」と強調する。

全社で会議を開き、納得するまで意見を言いあう場を設けることも有効という。

さらには取締役に次ぐ階層にあたるリーダー社員の意識を高めることも欠かせない。最高財務責任者(CFO)や最高執行責任者(COO)に優秀な人材が必要なことは言うまでもないが、実際の現場はリーダー社員が担う。「あえて本人の能力より少し上の権限を任せて、やる気を引き出すべきだ」(吉田氏)

こんな知見を学ぼうと、吉田氏の周りには多くのスタートアップ経営者が集まる。健康管理アプリのFiNCテクノロジーズ(東京・千代田)など3社で社外取締役を引き受けているほか、家計管理アプリのマネーフォワードなど7社の戦略顧問に就く。出資を含めると20社以上に携わる。

FiNCでは社員だけでなくインターンやアルバイトも含めて200人以上が参加する研修を実施している。吉田氏が進行役を務め、成長体験を共有しあうプレゼン大会などの内容だ。

溝口勇児社長は「組織の問題に直面した時は真っ先に吉田さんに頼る」と話す。

溝口氏の紹介で知り合ったタクシー配車アプリのジャパンタクシー(東京・千代田)の川鍋一朗社長とも意気投合し、社外顧問に招かれた。戦略会議やリーダー社員との合宿を通じ、チーム形成の極意を伝えている。

吉田氏は国内スタートアップの先行きに危機感を持っている。「製品開発やビジネスモデルなど技術的な面を重視する一方で、社員の当事者意識は軽視されていることが少なくない」からだ。

新興企業の資金調達がしやすい現在、起業のハードルは必ずしも高くない。それに伴い「就労経験が少なく、組織をとりまとめるスキルが未熟な社長も増えている」と吉田氏は警鐘を鳴らす。

製品とビジネスモデルが良ければ、起業初期の段階は乗り越えられるかもしれない。しかし「ミドル」と呼ばれる成長期以降では、組織の重要性が高まると吉田氏は力説する。「事業は途中でも転換できる。スタートアップが成功するかは人材や経営チーム次第だ」

チーム形成のノウハウは成長期のスタートアップにとって、資金や人材などと並ぶ重要な「資産」だ。吉田氏の知見が多くの企業に広がることは、日本のスタートアップ全体の成長力を高めることにもつながる。

(企業報道部 山田遼太郎)

[日経産業新聞 2019年5月22日]

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