2019年8月21日(水)

上方芸能史 笑いと涙で(演劇評)
笑う門には福来たる―女興行師吉本せい―

関西タイムライン
2019/5/24 7:00
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上方の芝居らしい芝居、という表現が似つかわしい舞台である。道頓堀の大阪松竹座での「笑う門には福来たる―女興行師吉本せい―」(矢野誠一原作、小幡欣治脚色、佐々木渚脚本、浅香哲哉演出)は、「笑いの王国」と呼ばれる吉本興業の創業者が主人公。大阪では2年半ぶりの再演で、主演の藤山直美ら出演陣が古き良き上方の匂いを醸しつつ、練り上げた芸で、芸に関わる人々のドラマを生き生きと細やかに映し出している。

バイタリティー溢れる吉本せい役の藤山(左)と色気を感じさせた夫・泰三役の田村

バイタリティー溢れる吉本せい役の藤山(左)と色気を感じさせた夫・泰三役の田村

明治末から昭和23年までの関西が舞台。芸事好きで、荒物問屋の商いを傾けさせた夫・泰三のため、せいは夫婦で寄席小屋の経営に乗り出す。才覚と熱意と奮闘で、徐々に評判を高めていく吉本。やがて一流の寄席の小屋主となり、ついに当代一の人気落語家・桂春団治の出演が実現する。

興行師として成功を遂げる一方、女として母としての幸せは薄かったヒロインを、大病を乗り越えた直美が深みを増した芝居で活写。持ち前の笑いのセンスを発揮しながら、バイタリティーと哀感豊かに、せいが背負う宿命を浮かび上がらせる。夫の浮気や大切な人の相次ぐ急逝。最愛の息子・頴右(けいすけ)(西川忠志)との確執を描く場面で見せる痛みと葛藤は、胸に迫るものがある。夫役の田村亮に明朗さと色気、事業を担う弟・林正之助の喜多村緑郎には才気と厳しさが滲(にじ)む。

春団治の林与一に愛嬌(あいきょう)と風情が漂い、噺家(はなしか)・桂文蔵の妻とよ役の仁支川峰子も手堅い。

落語から漫才への時代の流れや、春団治、藤山寛美、ミヤコ蝶々らへの敬意も盛り込んだ内容。せいの一代記であり、上方の近代笑芸史にもなっている。温かな笑いと涙で、人情の機微、人生の哀歓を綴(つづ)る作品だ。26日まで。

(演劇評論家 坂東 亜矢子)

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