2019年9月21日(土)

無燃料ロケット、電磁波で飛ばす 東大グループ考案
地上から照射、物資輸送向け

2019/5/24 10:44
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

米国の宇宙船アポロ11号の月面着陸から今年で半世紀。今や国内外の企業が商業用ロケットのコスト削減を競う。東京大学などのグループは物資を宇宙に大量輸送する未来を見据え、従来のロケットとは全く異なる打ち上げ方式を考案した。燃料を積まずに、地上から電磁波のビームをロケットに向けて照射し、そのエネルギーで推進する。実証試験に取り組みながら、2030年代の基地建設や試験機の打ち上げを目指している。

マイクロ波ロケットのイメージ(左)と、ビームを照射して小型のロケット模型を打ち上げる実験の様子

マイクロ波ロケットのイメージ(左)と、ビームを照射して小型のロケット模型を打ち上げる実験の様子

ロケットは通常、液体や固体の燃料を積んでいる。燃料の化学反応で発生するガスを噴射し、その反動で推力を得ている。東大の小紫公也教授は「アポロ11号を打ち上げたサターンVも現在のロケットも打ち上げの原理はほぼ変わっていない」と指摘する。

小紫教授らは燃料を積まずに電磁波のエネルギーで打ち上げる「マイクロ波ロケット」を考案。03年に小型のロケット模型で実験し、原理の実証に成功した。

打ち上げではロケットに向け、地上のアンテナから電磁波のビームを照射する。ビームはロケット底部にあるリフレクターと呼ぶ鏡に反射し、焦点付近にエネルギーが集まる。強いエネルギーによって焦点付近の空気が電離してプラズマが発生し、爆発を引き起こす。この衝撃波をリフレクターが受け止め、ロケットの推進力になる。

燃料を積まないため、タンクやエンジンは不要だ。より多くの物資を運べ、簡素な構造で製造コストも下がる。その代わり、ビームを送る基地が必要になる。初期投資として基地を建設し、再使用型ロケットなら打ち上げコストは電気代などに限られる。宇宙に物資を大量輸送する手段になると期待される。

実験では量子科学技術研究開発機構が核融合炉研究に使う「ジャイロトロン」という装置でビームを発生させた。マイクロ波ロケットと呼ぶが、実はビームには、マイクロ波より波長が短い電磁波のミリ波を使う。

03年に打ち上げたのは約10グラムの小型模型で、2メートル飛ばして原理の実証に成功した。09年には120グラム程度の模型を1.2メートル打ち上げた。ビームをパルス状にして照射すると持続的に爆発が起き、推力を高められることも分かった。 ビームでプラズマが生じる過程や爆発による空気の流れなど、マイクロ波ロケットの詳しい原理は未解明な部分が多い。小紫教授らは福井大学や筑波大学などと協力して、東大にもジャイロトロンを設置、実験データを積み上げる方針だ。

ジャイロトロンは核融合炉とともに技術開発が進む。実用レベルのロケット打ち上げには100メガ(メガは100万)ワット~100ギガ(ギガは10億)ワットの出力が必要とされ、非常に規模が大きい。多数のジャイロトロンを制御し、強力なビームを作る技術も必要だ。

コンピューター上の打ち上げシミュレーション(模擬実験)を実現し、20年代に実用レベルのロケットや打ち上げ基地の設計を目指す。道のりはまだ長いが、小紫教授は「開発不可能な問題が出てくるとは思わない」と話す。

実はビームによるロケット打ち上げは「マイクロ波ロケット」が最初ではない。1970年代にレーザーを用いる方式が提案され、2000年には米国の研究者が約50グラムの模型ロケットを70メートル以上飛ばすことに成功した。
 レーザーは指向性が高く、ビームを長距離送りやすいという利点がある。ただ、レーザービームの発生装置が非常に高価なことが課題だ。マイクロ波はレーザーに比べるとビームが広がりやすいが、ジャイロトロンという比較的安価な装置でビームを作れる。
 マイクロ波ロケットをどのような形で実用化するのかは様々な方向性が考えられる。小型に特化するか、大型も打ち上げるか。1段か多段か。従来型の2段ロケットの1段目をマイクロ波ロケットに置き換えるだけでもコスト削減になるとの試算もある。
 マイクロ波を用いる打ち上げはプラズマによる爆発を利用する方式のほか、ロケットに積んだ燃料をビームのエネルギーで加熱する方式も考案されている。現状のロケットと同様に燃料が必要でコスト削減は限定的になるが、爆発方式と組み合わせれば安価になるとする研究者もいる。
 まずは実証試験の規模を拡大しながら、宇宙空間への到達を目指すことになる。(越川智瑛)
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