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今日も走ろう(鏑木毅)

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自分をほめて前に進む 過去振り返り新たな挑戦心

2019/5/23 6:30
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イチロー選手が3月に引退した。彼と自分を並べて考えるのは大層おこがましいけれど、50歳で現役にこだわる私にとっては同朋がまた一人去ったようで複雑な気持ちだ。

彼は天賦の才能を持ちながらも、決しておごることなく日本からメジャーへとさまざまなチームを渡り歩いた。そして年齢を重ねてもいつも置かれた環境に自分を柔軟に合わせ、最大限に輝くよう不断の努力を続けた。それが彼のすごさ。

最も印象的だった言葉は「大きな成果を残した瞬間に、自分はそのことを忘れる」というものだ。これはイチロー選手がなぜあれほどの結果を残せたのかを如実に表す言葉だろう。常に現状より上を目指し、偉業をなし遂げても満足せずに貪欲に努力する姿勢にこそ、彼の偉大さと人間的な魅力を感じる。

スポーツ選手として、この気持ちは理解できる。アスリートはいつも結果を求められ、現在の自分のレベルに満足していては後退するも同然であり、私自身もこのことを常に頭の片隅に置いて選手生活を送ってきた。

2009年UTMBで3位となった表彰台では喜びもそこそこに次の課題を探す自分がいた

2009年UTMBで3位となった表彰台では喜びもそこそこに次の課題を探す自分がいた

例えば世界最高峰の舞台で結果を出しその表彰台の上で喜びに浸りながらも、さらにその上の2位、1位にたどり着くには何が足りなかったのかをすでに考えていた。たとえ「世界一」の称号を得ようとも、おそらくそれに飽き足らずその地位を1年、2年守りたいと考えただろう。どんな結果を出しても心の奥底から満足することはなかった。

この考え方を改めることにした。きっかけは娘が「自分の知らないパパの活躍を知りたい」とかつての私の映像などを見始めたことだ。これまでの私は好結果を振り返ると、現状に甘んじて厳しいトレーニングをできなくなるような気がしていた。だが最近は過去の記録を見て、今までよく頑張ってきたなぁと振り返るようにしている。その結果、昔はできたのに今はできなくなったというショックや自己嫌悪の感情がほぐれ、満足感を得られるとともにまた新たな気持ちでチャレンジしようという決意が芽生えてくるのだ。

昭和生まれの世代は常にもっと上を目指すことが美徳とされ、見えない何かに追われ続けてきたような気がする。平成8年のアトランタ五輪の女子マラソンで有森裕子さんが銅メダルに輝いた。「初めて自分で自分をほめたい」と語った言葉に世間は感動すると同時に新鮮に感じた。もちろん常に前のみを見つめ突き進むことは大切だし、何かを達成するには不可欠かもしれない。しかし時にはそれまでの過程を振り返り、その景色を味わってもよいのではないだろうか。さらに上を目指すことの意味がしっかりと整理された形で理解でき、新たな力が生まれてくることだろう。

将来は価値観が大きく揺らぎ先が見えにくい時代だといわれる。スポーツの勝利の価値さえも量りにくくなるかもしれない。過去のさまざまな経験を含めて力に変えるスタイルこそが新時代を乗り越えるカギとなる。

(プロトレイルランナー)

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