2019年6月27日(木)

オーストリア、「隠し撮り」で連立崩壊 極右に危うさ

ヨーロッパ
2019/5/21 18:44
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【ベルリン=石川潤】オーストリアのクルツ首相が率いる中道右派の国民党と、極右の自由党の連立政権の崩壊が決定的になった。致命傷になったのが、副首相辞任を表明した自由党のシュトラッヘ氏のロシア人女性に対する不適切な発言を隠し撮りしたビデオの存在だ。政権獲得のためには利益供与もいとわない危うい姿が明らかになり、極右の政権参加が進む欧州全体に警鐘を鳴らしている。

隠し撮りされたビデオでシュトラッヘ氏は副首相辞任に追い込まれた=ロイター

18日、副首相辞任を表明したオーストリアのシュトラッヘ氏(右)=AP

極右の自由党は20日夜、同党出身の国防や運輸など全閣僚を辞任させる方針を固めた。クルツ首相が同日、副首相だけでなく、捜査担当の同党幹部、キクル内相を更迭する考えを表明したことに反発したためだ。クルツ首相への不信任案の提出を探る動きも野党を中心に広がり、政局は不透明さを増している。

地中海のリゾート地、イビサ島。1泊1000ユーロ(約12万円)近い貸別荘で、たばこをくゆらすシュトラッヘ氏がロシア人とおぼしき女性に対して利益供与を約束する――。独誌シュピーゲルと南ドイツ新聞がすっぱ抜いた隠し撮り映像がすべての引き金だった。

撮影されたのは前回の総選挙直前の2017年7月。シュトラッヘ氏はロシアの新興財閥の関係者とされる女性に大衆紙クローネン・ツァイトゥングの取得を勧めて「そうすれば我々(の支持率)は27ではなく34になる」と語りかけた。

シュトラッヘ氏は買収後に「3人か4人、やめさせなければ」と語り、ハンガリーのオルバン首相のような報道統制が理想だと発言した。さらにシュトラッヘ氏に協力すれば「現在は大手建設会社が受注しているすべての政府発注を手に入れられる」とまで踏み込んだ。

撮影されたのは副首相就任前だが、政権獲得のためにロシア人投資家を利用し、見返りに利益供与を約束した事実は否定できない。シュトラッヘ氏は発覚後に「政治的な暗殺」だとワナにはめられたことを強調したが、極右の本質が映し出されたとの受け止めもある。

黒幕が誰で、何の目的でビデオを撮影したかはヤブの中だ。独誌シュピーゲルと南ドイツ新聞は「政治的な意味合いと公共の利益」のため、入手したビデオの記事化に踏み切ったという。

23~26日の欧州議会選挙の直前でのスキャンダルは極右などの反欧州連合(EU)勢力にとって打撃となる。最新のオーストリアの世論調査では、自由党の支持率が18%と問題発覚前から5ポイント落ち込んだ。既存政党への批判票として極右に投票しようとしていた有権者が、危うさを感じて考えを改めた可能性がある。

もっともオーストリアの場合、右傾化を強めるクルツ首相の国民党が支持率を4ポイント伸ばし、自由党を離れた有権者の受け皿となった。難民の流入は減少したが、安全保障や治安への有権者の関心は引き続き強く、極右勢力がこのまま衰えるかは微妙といえる。

ましてオーストリア以外で極右への警戒がどこまで強まるかは不透明な面がある。次期EUトップの選出につながる欧州議会選では二大政党が過半数割れし、反EU勢力が3分の1に迫るとの分析がある。

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