2019年8月24日(土)

東南アジア、成長二極化 シンガポールは10年ぶり低く
ベトナムは米中対立の影響小さく

2019/5/21 17:58
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【シンガポール=中野貴司】東南アジア主要国の経済成長が二極化している。米中貿易戦争や中国の経済減速の影響が各国で異なるためで、打撃の大きいシンガポールやタイの成長率はそれぞれ約10年ぶり、約4年ぶりの低水準となった。一方、中国に代わる輸出拠点としての存在感が増すベトナムは7%近い成長を維持しており、明暗がはっきり分かれている。

シンガポールは域内の国の中でも貿易摩擦の影響を大きく受ける=三村幸作撮影

部品企業などが雑居ビルに密集するシンガポール東部の工業地区カキブキ。猛暑のなか、組み電線(ワイヤハーネス)を手がける中小企業では、社員が汗を流して出荷作業にあたっていた。

同社幹部は「外資系素材メーカーが米国の制裁関税を理由に、ケーブルなど原材料の値上げを通告してきた」と嘆く。輸出する製品価格にはすぐに転嫁できず「2019年の利益率は前年の半分以下の3~4%に落ち込む」という。

シンガポール貿易産業省が21日に発表した1~3月期の国内総生産(GDP、確報値)は、前年同期比で1.2%増にとどまった。マイナス成長だったリーマン危機後以来の低成長になったのは、GDPの約2割を占める製造業の不振が主因だ。高い付加価値を持つ製品や部品を中心にアジアのサプライチェーン(供給網)の一翼を担ってきたが、米中貿易戦争が激しくなった18年以降、売り上げや利益の落ち込みが加速している。

それを明確に示すのが、1~3月期に6.4%減と2四半期連続の減少となった輸出だ。主力の電気製品が17.2%の減少となっただけでなく、石油化学製品(11.3%減)や専門機械(31.7%減)なども2ケタの落ち込みとなった。地域別では最大の輸出先である中国向けが2.2%減ったほか、台湾向けが11.7%、日本向けが29.5%の減少だった。

シンガポール貿易産業省は21日、輸出や成長率の減速を受け、19年の成長率見通しを従来の「1.5~3.5%」から「1.5~2.5%」に引き下げた。ガブリエル・リム次官は「米国が(5月に入って)表明した制裁関税を実際に発動すれば、東南アジアの成長率にも負の影響が及ぶ」と今後の見通しにも懸念を示す。

中国向け輸出の減速が成長率を押し下げる構図は、貿易への依存度が高い他の東南アジア諸国も同様だ。タイ政府が21日に発表した1~3月期の実質GDPは前年同期比2.8%増と、軍事クーデターが起きた14年以来の低水準だった。11四半期ぶりに輸出が減少に転じた要因は中国向けが10%近く落ち込んだためで、影響は紙パルプや天然ゴム、自動車部品など幅広い製品に及んでいる。

アジア開発銀行(ADB)が集計したインドネシアやマレーシア、フィリピンも含めた東南アジア5カ国の1~3月期のGDP伸び率の平均値は、前年同期比4.2%にとどまった。18年1~3月期(5.3%)を直近のピークに、減速傾向が続く。17年から18年初めにかけては中国向けの輸出が経済成長を押し上げてきたが、米中貿易戦争の影響が加速する。

米中対立がプラス要因となる国もある。ベトナムは中国の制裁関税を避けた代替受注が増えており、1~3月期の米国向けの輸出は26%の大幅増となった。7.4%の減少だった中国向けを上回る効果で、高成長を維持する原動力となった。

国際通貨基金(IMF)は、米中間の貿易品のすべてに25%の関税がかけられた場合、ベトナムが米国向けの貿易で最もプラスの効果を受けるアジアの国になると分析する。

中国の電子機器大手、歌爾声学(ゴアテック)は1月、ベトナム北部のバクニン省に2億6千万ドル(約290億円)をかけて工場をつくる認可を得た。ベトナムが中国からの生産移管の受け皿になる可能性もある。

ただベトナムなどで米国向けの輸出増加が続くかは不透明だ。オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)は増加の一因が「関税引き上げを見越した多国籍企業による米国向け輸出の前倒し」にあると指摘する。4~6月期以降は前倒し効果もなくなってくるという。主要輸出先の米中向けがともに落ち込めば、東南アジア主要国の成長率がさらに下振れする恐れもある。

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