2019年6月19日(水)

米大統領選、もはや現職は有利ではない(The Economist)

The Economist
2019/5/21 2:00
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トランプ米大統領の選挙集会は、ますますバージョンアップしている。トランプ氏のスローガンである「MAGA(Make America Great Again=米国を再び偉大に)」の文字が入った野球帽の販売、同氏がどんなに地元に寛大な人物かと証言する前座の演説者たち、本人のヘリコプターでの劇的な登場、観衆に若かりし頃を思い出させるかのように大音量で流れる英歌手エルトン・ジョン氏やローリング・ストーンズの曲など、その特徴は残っている。ただその演出が「これぞ大統領のイベント」というレベルに上がっているのだ。

■独立記念日かのように盛り上がった町

来年の選挙に向け、トランプ氏はもはや存在するか疑わしい浮動層に訴えるより共和党支持者に注力する方がよさそうだ=ロイター

来年の選挙に向け、トランプ氏はもはや存在するか疑わしい浮動層に訴えるより共和党支持者に注力する方がよさそうだ=ロイター

本誌の米担当コラムニストは8日、米フロリダ州北西部のパンハンドル郡パナマシティビーチで開かれたトランプ氏の演説集会に参加した。立ち並ぶ露店が売っている品物は米プロフットボールNFLの公式グッズ並みの品質で、大観衆は皆、少なくとも出店の1つに訪れ、何かを買って身につけていた。

トランプ氏の大統領就任前の選挙集会で同氏を称賛する役目を務めていたのは一部の変わり者とセッションズ前司法長官だったが、今回はフロリダ選出の連邦議員団だった。「トランプ大統領の存在を神に感謝しよう! こんなにフロリダを大事にしてくれる人はいない!」とリック・スコット上院議員は叫んだ。今回、トランプ氏は大統領専用ヘリ「マリーン・ワン」で登場した。舞台監督らは1970年代の音楽に合わせ、豪華な花火も打ち上げた。トランプ氏の訪問は、この町にとって米独立記念日の祭りのような盛り上がりをみせた。

2016年の大統領選挙で同郡は、約71%がトランプ氏に投票しただけに温かい歓迎は期待できた。それでもさわやかな夕暮れ時、ロゴ入りのTシャツと短パンに身を包んだ白人だらけの観衆の感情をかき立てる同氏の話し方は驚くべきものだった。

元米空軍軍人のダレルさんは「彼が大好きで、大好きで、大好きなんだ」と語り、「誰よりも一般の人のことを気に掛けてくれるから。民主党のやつらは(国民を)どうでもいいと思ってる。あいつらは国民からお金を取り上げようとしている。分け与えるんじゃなくてね」と続けた。その日の演説を、さぞお気に召したに違いない。

トランプ氏は自慢話から演説を始めた。同政権は最近、ハリケーンで被害を受けたフロリダ州に「何十億ドルもの」災害救援金を「既に与えた」と言う。さらに米民主党が邪魔していると言い(事実ではない)、今後もフロリダに予算を投入すると約束した。

そして次に無意味な比較をして米自治領プエルトリコをこきおろした。プエルトリコはさらに甚大なハリケーン被害を受け、大量の島民がフロリダに逃げてきた。そのプエルトリコを欲深く、腐敗している、と。大統領候補だった時は、支持を得たい特定層に向け移民を巡るでたらめな主張をしたが、大統領になった今は、移民流入を防ぐ策を最優先していると言うだけで支持獲得を狙えるはずだ。

演説開始から90分間、トランプ氏は直近の雇用関連の数字を実際より高く見せかけ、政敵をこきおろし、中南米諸国からの移民を「射殺すればいい」と誰かが叫んだ際には観衆と一緒に爆笑した。その間、声援が途絶えることはなかった。

■もはや中道、浮動票は存在しない…

多くの人が、現職大統領のトランプ氏が来年の選挙でどの程度有利になるか考えを巡らせている。これはもっともな疑問だ。

というのも同氏は16年、僅差で当選した。トランプ支持から転じた人は少ないし、大統領であるがゆえの知名度の高さ、要職の神秘、公職と選挙運動を融合できる機会の多さなど、現職は有利だとされてきた。ある推計では、現職大統領であることは大統領選史上、平均3ポイント有利に働いてきたという。経済低迷に悩まされた80年のカーター大統領、92年のジョージ・ブッシュ大統領(父)の2人以降、再選されなかった大統領はいない。しかもトランプ氏は、フロリダでの言動からもわかるように、あらゆる公務の機会を自分の選挙活動に生かそうとするだろう。

今後も、やってもいないことを「あなたたちのために成し遂げた」と観衆に主張するだろう(実際、フロリダへの災害救援金支出は遅々として進んでいない)。到底ありえないことを実行すると約束し、政治的な活動と公職の仕事を恥ずかしげもなく一緒にするだろう。今回のフロリダ訪問も、ハリケーンの被害を受けた空軍基地の視察が口実だった。米国防総省は同基地の閉鎖を検討しているが、トランプ氏は莫大な費用を投じて再建してみせるとしている。立場を利用してこうした大言壮語はできるが、20年の選挙では現職は従来ほど有利にはならなそうだ。

なぜなら人を徹底的に攻撃することで支持率を上げることを含め、トランプ氏の支持者が同氏を評価する点というのは、まさに同氏を支持しない人たちが嫌う点だからだ。

トランプ支持者はあまり減っていないが、一方でほとんど増加もしていない。支持率は安定しているが、そもそも低い。昨秋の中間選挙で民主党員の投票者数が跳ね上がったことからも分かるように、トランプ支持者が再選を熱望するのと同じだけ、民主党は同氏を大統領の座から降ろそうと燃えている。

従ってトランプ氏が現職ゆえに3ポイント余計に得られるとは考えにくい。それほど大きい浮動層がそもそも存在するか不透明だからだ。トランプ氏は現職ということで有利に使える手段を多く抱えているが、来年の選挙は12年のオバマ前大統領再選の時と同様、どちらの党が支持者をより多く投票に動員できるかによって恐らく結果が決まる。

これは共和党にとってはリスクが高い。民主党の方が支持者が多いため、一般有権者による投票では共和党に勝つことが多いからだ。だが選挙人の存在が民主党の強みを打ち消す(これで16年にトランプ氏は勝利した)。

また、圧倒的な共和党支持者にしか目を向けないトランプ氏ほど極端ではないにしても、オバマ氏もブッシュ氏(子)も再選を目指した際、最初に当選した選挙の時ほどあらゆる層を取り込もうとはしなかった。こうした浮動層の縮小により、現職の優位性低下は長期の傾向であることがわかる。

たとえ、トランプ氏が自分を律することができて、現職である強みと好調な経済で再選を当てにできると仮定したとしても、その戦略を成功させるためだけの数の中道派はもう存在していないかもしれないのだ。

■トランプ氏の支持獲得の手段は人への攻撃

支持率が低いとはいえ、トランプ氏は支持層を広げる努力をするより、世論を分断する方法を続ける方が成功するかもしれない。特にかつてのトランプ支持者を引き戻す方が期待できるかもしれない。

つまり、同氏がごく僅差で勝利を収めた米中西部のミシガン州やペンシルベニア州など、前はオバマ氏に投票し、16年にはトランプ氏に投票した白人労働者階級の支持を今回も何としても得なければならないということだ。彼らは16年の大統領選でのトランプ氏の数々の暴言やあり得ない行為を嫌悪することはなかったが、好況のおかげで賃金が上がったとは感じていない。それだけにトランプ氏が過激な発言を抑えて、今の経済が好調なのは自分のおかげだといくら語っても同氏に再び投票するかは定かではない。

だが、トランプ氏は政敵を激しく非難することを最も得意とする。実際、本人も攻撃開始にうずうずしているようだ。フロリダでも観衆を前に、民主党予備選挙の主要候補を一通りののしってから、「誰でもいいから、次に誰を批判したらいいか選んでくれ。(批判を)始めるぞ」と熱く語っていた。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. May 18, 2019 All rights reserved.

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