2019年5月25日(土)

オープニング作品、仏全土で同時公開
カンヌ映画祭リポート(2)

カバーストーリー
2019/5/16 17:00
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映画祭の幕開けを飾ったのはコンペティション部門にも選ばれた米国のジム・ジャームッシュ監督「ザ・デッド・ドント・ダイ」だった。驚くのは映画祭での上映と同時にフランス全土の映画館で公開が始まったことだ。

14日の記者会見で「ネットフリックス問題」について語るアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督=ロイター

14日の記者会見で「ネットフリックス問題」について語るアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督=ロイター

これは初めての試みだという。表向きはカンヌ映画祭に参加する関係者だけでなく国を挙げてお祭り気分に浸ろうというところだろう。ネット配信事業者の作品を規制したカンヌ映画祭が「映画とは映画館のスクリーンで上映されるもの」という自らが定める「映画の定義」を強調する象徴的な出来事のようにみえた。

コンペティション部門の審査員長を務めるアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督は14日の記者会見で「映画は目で見るだけのものではない。映画は、映画館での『共同体験』のために生まれた」と語り、多くの人が映画館でスクリーンに映し出された映画を見る「共感」の大切さを訴えた。

一方で、イニャリトゥ監督自身もスマートフォンなどで配信事業者の作品を楽しんでいると話し、またネット配信のおかげで彼の出身国であるメキシコの地方でも手軽に映画を見られる環境が整ったと評価もした。そして「映画がネットで見られるのは素晴らしいが、(配信事業者は)映画館で上映するという選択肢をもってもいいのではないか」と付け加えるのを忘れなかった。

この最後の発言の裏には、配信事業者の製作力を無視できないとの思いがイニャリトゥ監督にもあるのだろう。ネットフリックスだけでなくディズニーやアップルもネット配信事業に参入し、それぞれ独自コンテンツの一つとして映画を製作していくことになるだろうからだ。カンヌと並び世界三大国際映画祭の一つであるベネチア映画祭は、配信作品も映画と同等に扱うと明らかにしており、昨年はネットフリックスによるアルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ」に最高賞となる金獅子賞を与えた。

カンヌはどこまで「配信排除」の規制を貫けるのか――。早晩撤回するとの見方もある。もしそれが真実になるとしたら、その時、カンヌは再び映画をどう定義づけるのだろうか。関心は尽きない。

「ザ・デッド・ドント・ダイ」は、オープニングとして発表された時点からジャームッシュがどんなゾンビ映画を撮るのかが注目されてきた。

舞台は米国の田舎町センターヴィル。ある日突然、環境破壊による影響で携帯電話などが使えなくなり、日没の時間も予測できなくなり、動物が異常な行動を示し始めるところから物語は始まる。やがてお墓からは死体がゾンビとなってよみがえり、町の人々を襲撃する。市民の命を守る立場である警察署の3人の保安官(ビル・マーレイ、クロエ・セヴィニー、アダム・ドライバー)はゾンビに立ち向かうことになる……。

ジム・ジャームッシュ監督「ザ・デッド・ドント・ダイ」の一場面。ビル・マーレイ(左)、クロエ・セヴィニー(中)、アダム・ドライバーら豪華俳優の共演も話題だ
(C)2019 Image Eleven Productions,Inc.

ジム・ジャームッシュ監督「ザ・デッド・ドント・ダイ」の一場面。ビル・マーレイ(左)、クロエ・セヴィニー(中)、アダム・ドライバーら豪華俳優の共演も話題だ
(C)2019 Image Eleven Productions,Inc.

ゾンビ映画の巨匠といわれるジョージ・A・ロメロ監督によってホラー映画として発展したが、近年はドラマやミュージカルなど様々なジャンルで、多様なゾンビが描かれてきた。ただ、本作では新たなゾンビ像が生み出されはしない。一見するとオーソドックスなゾンビ像で描かれる陽気なコメディーのおもむきだ。が、笑いの中に環境問題や政治問題をしっかりと絡めてくるあたりがジャームッシュならでは。風刺劇といったほうがしっくりきそうだ。

15日に開かれた記者会見でジャームッシュ監督は「私は子供の頃からロメロやサム・ライミ、ジョン・カーペンターといった監督のホラー作品を愛してきた。フランケンシュタインやゴジラが登場する映画では、それらは社会構造の外側からやってきて人間を脅かす。が、ロメロが描いてきたゾンビは、崩壊する社会構造の中からやってくる。ゾンビもまた犠牲者だ。映画が現在を映す鏡だとすれば、ゾンビ映画は現代のメタファーでもある」と語った。

製作の動機としては環境問題への関心の高さが背景にあったようだ。「私たちは今、環境が深刻な危機にさらされているのを目の当たりにしている。私はこの映画でもって誰かに何かを成すべきだと言うつもりはない。ただ、人間の認識や意識ほど美しいものはない。冗談やユーモアがなければ人間として生き続けることが難しいという思いを映画で表現するために最善を尽くした」と話した。日本公開は2020年春の予定だ。

(近藤佳宜)

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