「意識の移植」が問う倫理 脳科学者・渡辺正峰氏
令和の知をひらく(1)

文化往来
2019/5/20 6:00
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令和の時代、私たちの生きるこの世界はかつてなく激しい変化に見舞われるだろう。未来を生き抜くための新たな知が求められる。気鋭の識者に聞く。

人間の意識を機械に移植する研究を進めている。米グーグルでAI(人工知能)研究を率いるレイ・カーツワイル氏は、今世紀半ばにはこれが実現すると予言している。私自身は、3月に始動したスタートアップなどを通じて、20年後メドの成功を目指している。令和のうちに、人間が機械の中で永遠に生き続ける時が来るかもしれない。

脳科学者の渡辺正峰氏

脳科学者の渡辺正峰氏

現在は、マウスの脳と機械を接続するための実験に取り組んでいるところ。実験にはマウスの訓練が必要だが、これが可能なことは確認できた。マウスでうまくいったら次はサルで実験し、ゆくゆくは私自身の脳と機械をつなぐつもりだ。

 ■脳と機械を接続し、徐々に人間の意識を浸透させていくのだという。

米国では実際に研究されているが、「脳の構造を完全に読み取り、機械として再現する」なんてことは、少なくともあと100年はできないだろう。

私が提案しているのは、脳をニュートラルな意識を有する機械(コンピューター)と長期間つなぎっ放しにする方法だ。そうして、比喩的にいえば「機械を私色に染める」。完全に染まったとき、移植は完了する。すると肉体が滅びた後も、機械の中で「私」の意識は永続できるようになる。

人間の脳において、右半球と左半球を統合するために必要な神経線維の数、やり取りしている信号の数は思いのほか少ない。脳と機械の接続に必要なブレーン・マシン・インターフェース(BMI)の開発は十分に可能だと考えている。

もっとも、人間の脳はすさまじく複雑だ。物理におけるニュートン力学のような基本的理論さえなく、未知の領域はあまりに広い。多額の寄付をした米マイクロソフトの創業者ポール・アレン氏のような、脳科学研究の旗振り役にもっと出てきてほしい。

 ■人間が不死の存在になるとしても、それを望む人は決して多くはないという。

講演で聴衆に「意識を移植してみたいですか」と聞くと、意外にも手を挙げるのは100人いたとして数人にすぎない。私は中学生のころから「死にたくない」と思っていたのだが。

意識の移植が可能になる時代には、今の感覚からすると抵抗のあることがいくつも出てくるだろう。意識のコピーは許されるのか、複数人の意識を結合していいのか――。いずれも科学的には可能になることだ。

今の倫理や宗教、文化は「人は死ぬ」ということを前提としているが、これも大きく変わっていくはずだ。数百年後の人類からすると、「昔は『死』なんていう野蛮なものを受け入れていたのか」なんてことになるかもしれない。

(聞き手は柏崎海一郎)

わたなべ・まさたか 1970年千葉県生まれ。東大准教授。専門は脳神経科学。著書に「脳の意識 機械の意識」。
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