2019年9月16日(月)

中国を「自力更生」という強硬姿勢に追い込む危険(The Economist)

2019/5/14 2:00
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The Economist

近代中国を封じ込めようとして成功した例はない。ソ連は1960年、中国を封じ込めようとした。毛沢東が、核戦争が起きても社会主義者より帝国主義者の方が多く死亡するだろうから世界は破滅するが共産主義になると言い放ったその無頓着さに、フルシチョフ共産党第1書記が危機感を抱いたからだった。

■中国の1964年の核実験成功が示す教訓

ソ連から来ていた核兵器の専門家を含む技術顧問らは中国から撤退した。彼らはその際、中国に持ち込んだ核に関する書類を全て持ち帰ることができないため、全部シュレッダーにかけて中国から引き揚げた。だが中国の技術者らは、その切れ端を集めてなんとか修復し、そこから手がかりを得て4年後、中国は核実験の成功にこぎ着けたのだった。

この出来事が示す教訓は明白だ。中国は脅威だから支援をやめるという判断は理にかなっているかもしれない。だが中国が他国の支援などなくとも自力で最先端技術の開発に成功し、その結果、他国に頼る必要などないと考え始めたら、それは支援を中止しなかった場合に比べ、世界がより安全になったとは必ずしも言えない。

■習氏が共産党の「自力更生」を宣言した訳

今日の米国で、この教訓はあまり生きていない。トランプ米大統領が始めた貿易戦争が今後どうなろうと、米国は中国への強硬姿勢を強めている。輸出規制や関税障壁、対米投資審査の厳格化などにより重要技術の流出を阻もうとしている。どれほど成功しているかはケースによって異なるが、米政府は欧州や他地域の同盟国に圧力をかけ、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)など中国企業を西側の市場から排除しようとしている。米大学構内で中国政府の指示によるスパイ活動が後を絶たない疑いが深まる中、米国は科学や技術専攻の中国人学生へのビザ発給要件を厳しくしている。

米議会や米政府の幹部らは、中国への支援を打ち切ることによる負の影響には無関心のようだ。中国が支援を打ち切られた結果、西側の支援など必要ないと考えるようになっても、米議会も米政府も気にしないだろう。

共和党のマルコ・ルビオ上院議員は本誌への取材に対し、「どのみち、そうした結末を迎えると思う。根本的に中国がその到達点(欧米に頼る必要がない状況)を目指していないわけがない」と語った。同氏は、米国の技術や通信など国家安全保障に関わる市場への中国参入を制限する法案を野党・民主党と共同で提案してきた。

中国の決意が試されていると考えている習近平(シー・ジンピン)国家主席は昨年9月、重要な技術を海外から得ることは保護主義の台頭で困難になったと語り、中国は「自力更生の道を歩まなければならない」と宣言した。

米ワシントンのシンクタンク、ポールソン・インスティテュートのニール・トーマス氏の最近の論文によると、この「自力更生」は中国共産党が70年間掲げてきたスローガンだ。経済的自立というより、他国に支配されたくないという意味で使われてきた。毛沢東時代に、ソ連の指導者らが中国に資金や近代的な機械を送り、1万人を超える顧問を送り込んでいた時も、この自力更生のスローガンはよく使われた。トーマス氏によると、鄧小平氏も40年前に資本主義勢力と海外からの投資に中国市場を開放した際、同じ言葉を用いたという。

海外からこれほど支援を受けつつ自力更生を語るのは、矛盾しているように聞こえる。だが中国語での意味は曖昧で、「自らの努力による再生」を指す。米国が今、中国に対して様々な壁を築きつつあることは、中国に自力更生を追求させることになり、そのことは全く異なる価値観やルールを持つ諸外国に中国は何の借りもなく、交渉などでも譲歩する必要はないという危険な発想に中国を追い込むことになりかねない。

■欧米は中国の改革派が力を持つことはないと結論

欧米が中国とは距離を取った方がいい、と最近考え始めた背景には、自由主義社会は革新性や想像力の面で優位性があり、独裁国家より常に先を行けると信じてきたが、その考えは古くて甘かったとの思いがある。中国が追い上げてくるに従い西側諸国は守りの姿勢に入りつつある。

また、中国の改革派が力を発揮することはないという政治的論調に説得力ある反論ができなくなりつつあることも影響している。清朝時代に海外の勢力が初めて中国に接近し始めた頃から、中国とはかかわりながら関係を築いていくことが、中国国内のリベラル派や改革派を後押しすることになると考えられてきた。

そのため、19世紀の英国では中国に市場を開放させるのに英政府が武力を使ったことに多くの評論家が公然と非難を浴びせた。それは道徳的観点からというより、強硬手段に訴えれば中国がますます外国との関係を断つ方向に向かってしまうことを恐れたからだった。

世界貿易機関(WTO)が2001年に中国の加盟を認めた時、西側諸国の多くは浅はかにも、これで中国政府による経済への介入を減らそうとする中国の改革派に力を与えることになると期待した。 だが、今や中国政策を研究する米国を含む西側の多くの人は、中国の改革派を外から助けたり、彼らの力を失わせたりしても意味のある展開につながるほど彼らに力があるとは思っていない。

習氏の経済ブレーンである劉鶴副首相は、中国市場の一層の開放を望んでいる改革派だと海外企業の経営者や政治家はみている。だが、劉氏に、改革に反対する既得権益者たちに立ち向かうだけの権限が与えられているようにはみえない。あくまでも習氏の部下にすぎない。

こうした理由から、少し前なら米国の攻撃的な姿勢に眉をひそめたはずの多くの外国の政府や企業が今、米国の対中政策に静かに称賛を送っている。彼らは、中国の改革派による変革の兆しがない以上、トランプ氏とそのチームが、中国政府による補助金の投入や国有企業による市場の独占、海外企業に対する技術移転の強要といったやり方を、大幅に変革させることを期待している。

確かにトランプ氏のやり方は諸外国を何度も失望させ、中国側の交渉責任者を務める劉氏に恥をかかせることもあった。しかし、中国国内の改革派を探し、彼らを支援することで中国の変化を期待するやり方も効果を上げることはなかった。

■米中のいずれもが間違っている可能性

西側諸国が、中国が自ら改革していくことはないとの結論に至りつつあることに、中国の最も親欧米派である一部は危機感を募らせている。北京の最も著名な大学やシンクタンクの一部の学者らは、中国から背を向けないように諸外国に訴えている。あるシンクタンクのトップは「改革について話すのは国内的にも、組織的にも今は問題があって難しい」としたうえで、それだけに外国からの圧力のおかげで「中国市場の開放が保たれている」と言う。一方、中国政府の顧問を務めるあるタカ派は、西側の各国政府が中国にあまりに攻撃的で懐疑的になれば、そのことが「中国にすさまじい国粋主義を生むことにつながるだろう」と警告する。

中国のタカ派としては、西側諸国とあからさまに対立した方が得られるものは多い。中国のスパイからすれば、貿易上の機密を相手から教えてもらえることは絶対にないのだから自ら取りにいくしかないと考えているのだろう。中国の強硬派は、米国は常に中国封じ込めを狙ってきたし、それが今まさに証明されつつあると主張するだろう。

米国も中国も自国の今の行動は理にかなったもので、そうする方が、自国にとってより安全につながると考えている。だが今後、どちらも間違っていたことが判明するかもしれない。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. May 11, 2019 All rights reserved.

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