ナイアガラの滝の観光船を電動化 水力利用で地産地消
スイスの充電大手ABBは米国とカナダの国境にあるナイアガラの滝の新しい観光船に「フル電動」の技術を供給すると2019年5月3日、発表した。充電には水力発電を利用し、再生可能エネルギーを地産地消する。19年後半に就航する予定。
ナイアガラの滝を船から展望するツアーは、古くからある観光アトラクションのひとつという。米メイドオブザミストが運営し、4月から11月の初週までの運行で年間約1600万人の乗客が利用する。メイドオブザミストの新しい観光船は、米国で初めて建造される「フル電動船」になるとしている。
これまでも客船など、スクリューを電気モーターで回転させるシステムはあったが、化石燃料を使ったエンジン発電機を稼働させつつ、その電気でモーターを駆動するシリーズハイブリッド型がほとんどだった。その場合、燃焼による排ガスを伴うことになる。
今回の電動船は、船内に搭載した蓄電池システムに貯めた電気だけでスクリューを回して推進するため、船からの排ガスがなく、再エネ由来の電気を充電するため、温室効果ガスも排出しない。こうした「フル電動船」は珍しい。

今回のシステムでは、双胴船の船体に総容量316キロワット時のバッテリーパック(蓄電池)を均等に分割配置する。2つの独立した電力システムを搭載することで冗長性が高まるという。ABBの電力およびエネルギー管理システム(PEMS)により制御され、船内のエネルギー使用を最適化する。電気推進モーターの出力は合計400キロワット(563馬力)。
岸辺で乗客が乗降する間に充電を行い、約7分間で完了する。水力発電による電力を利用することで、二酸化炭素フリーでの運航を実現するとしている。
船舶輸送は、世界の温室効果ガス総排出量の2~3%を占めている。海運規制の責任を負う国連専門機関である国際海事機関(IMO)は、50年までに年間排出量を少なくとも08年レベルから50%削減するという目標を設定している。
(日経BP総研クリーンテックラボ 金子憲治、ライター 工藤宗介)
[日経 xTECH 2019年5月10日掲載]