2019年6月20日(木)

財政再建路線が後退 マレーシア、政権交代から1年

東南アジア
2019/5/10 19:00
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【シンガポール=中野貴司】1957年の独立以来初の政権交代から10日で1年となったマレーシアのマハティール首相の支持率が下降線をたどっている。腐敗の象徴だったナジブ前首相を起訴し、消費税を廃止するなど国民の関心が高い政策に注力してきたが、財政再建路線は後退が目立つ。成長戦略も具体化には遠く、2年目の政権運営は厳しさを増す。

アンワル元副首相への禅譲がすんなり進まなければ、与党連合内で亀裂が生じる可能性も

93歳と高齢のマハティール首相はアンワル元副首相への禅譲を約束しているが、詳細な時期は明言していない

「汚職を減らすことができたのが、この1年の最大の成功だ。まともにビジネスができるようになり、海外直接投資も戻ってきた」。マハティール氏は9日、ナジブ前政権時代からの変化を自賛した。

腐敗した国の再生を掲げて政権交代を果たしたマハティール氏にとって、政府系ファンド「1MDB」を巡る汚職の捜査は最優先課題だった。多額の資金を自らの懐に入れたなどとしてナジブ氏を42の罪で逮捕・起訴し、汚職を隠蔽していた前司法長官や、関与した元財務次官らを次々と更迭した。代わりに実力主義に基づいて非マレー系や女性を要職に登用した。

ただ前政権時代の負の遺産を掘り起こした結果、負担が増えるというジレンマも生んだ。4月には前政権の支持基盤と密接に結びついていた連邦土地開発公団(フェルダ)の救済のため、約60億リンギ(約1600億円)の資金注入を決めた。

従来7千億リンギ弱と公表していた国の債務は政府保証なども含めて1兆リンギを超え、歳出の削減が急務だ。しかしマハティール政権は4月中旬、前政権が中断したクアラルンプールの大型再開発計画を再開すると発表した。その1週間前には、中国と建設費用が440億リンギに上る大型鉄道計画の再開で合意した。

税収の4分の1を占めていた消費税を政権公約通り廃止したため、安定収入源は細っている。ナジブ前政権時代に一時約15%まで縮小していた石油関連収入への依存度は約30%に逆戻りした。

1人あたりの国内総生産(GDP)が1万ドルを超えるマレーシアにとって、先進国入り後を見据えた中長期の成長戦略づくりが急務だ。マハティール氏は「2年目は経済政策に注力する」と訴えるが、これまで目立つのは「第3の国民車構想」や「インダストリー4.0」戦略といったスローガンばかり。将来の成長を支える新産業育成の道筋は見えてこない。

東南アジア研究所(ISEAS)のケイシー・リー上級研究員は「マレーシアの製造業は日本や韓国の水準に達するはるか前に、ピークを過ぎようとしている」と指摘。先進国入り前に成長率が鈍る「中所得国のわな」に陥っていると警鐘を鳴らす。

政権交代前は5%を超えていた成長率が4%台に落ち込むなど、経済は伸び悩んでいる。生活水準が改善しないことへの国民の不満も高まっている。世論調査機関ムルデカ・センターの最新の調査では、マハティール首相の支持率は就任以来、初めて5割を切った。

93歳と高齢のマハティール氏は、首相就任から2年以内をメドにアンワル元副首相に禅譲すると公言してきた。9日には「私は少なくともあと1年首相を続けることができる」と述べたが、禅譲時期は明示しなかった。

2人は1年前の総選挙の際、政権交代という共通の目的で手を結んだものの、かつては激しく敵対していた。2人の関係が再びこじれれば、マレーシア政治は混乱状態に陥りかねない。

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