2019年6月20日(木)

瀬戸際の千代田化工 三菱商事「仏の顔も3度まで」

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環境エネ・素材
2019/5/9 19:16
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経営再建中の千代田化工建設は9日、三菱商事や三菱UFJ銀行から総額1800億円の投融資を受けると発表した。会長兼最高経営責任者(CEO)には三菱商事の前機械グループCEOの大河一司氏が就く。過去に2度の経営危機に陥った千代田化工への再生支援は三菱商事からすれば「仏の顔も三度まで」。千代田化工は背水の経営再建に臨む。

決算発表する千代田化工建設の山東理二社長(左)ら(9日、東京都中央区)

三菱商事の垣内社長は千代田加工の支援について「きっと再生できると確信して決断した」と述べた。(9日、都内)

千代田化工が巨額の損失を計上した米キャメロンLNGプロジェクト(ルイジアナ州)

「きっと再生できるという確信で決断した」。9日、都内で記者会見した三菱商事の垣内威彦社長は千代田化工の再生に自信を示した。三菱商事は総額1600億円を投融資し、三菱UFJは200億円を劣後ローンで融資する。三菱商事は金融支援のうち、優先株による第三者割当増資を700億円引き受ける。

三菱商事は千代田化工の優先株を7月1日に取得する予定だ。千代田化工は会社法上の三菱商事の子会社には該当しないが、国際会計基準では会計上の連結子会社になるという。千代田化工は19年3月末時点で債務超過になったが、増資を受けて債務超過は解消される見通し。

三菱商事は今回の投融資を「再生支援」と定義した。千代田化工の大規模損失が表面化した18年10月以降、原因究明を本格化し、支援内容をぎりぎりまで練ってきた。垣内社長は「(経営危機になった)原因がはっきりしてきた。その答えを出せるベストメンバーを送る」と語る。三菱商事からOBも含めて総勢27人の人材を送り出す。言い換えれば、千代田化工が再生できなければ三菱商事にとっても「後はない」ということだ。

千代田化工の支援までの道のりは難路だった。当初、3月末を期限としていたが、1カ月以上延びた。支援を巡っては中国や韓国、欧州などの同業のプラント会社に支援を要請したほか、投資ファンドなどにも資金提供を求めた。ただ、欧州プラント会社が千代田化工の完全子会社化を要求するなど、条件が折り合わなかった。最終的に残ったのが、筆頭株主の三菱商事とメーンバンクの三菱UFJだった。

三菱商事が千代田化工支援で一枚岩だったわけではない。「日本の液化天然ガス(LNG)の競争力を高めるといった生易しい話ではない」。ある三菱商事幹部は突き放す。三菱商事は持ち分法適用会社に引き上げ、社長まで送り込んだが、結果が伴っていない。巨額の資金が伴う再生支援には三菱商事社内の異論に加え、投資家や株主からの反対の声も少なくない。

三菱商事と三菱UFJは両社のステークホルダーを納得させるため、千代田化工に経営責任の明確化と徹底した潜在リスクの洗い出しを求めた。支援決定後に追加損失を出すようではステークホルダーからの厳しい突き上げを受けるためだ。

千代田化工の山東理二社長は18年10月に業績を下方修正した際、「これ以上の損益悪化はない」と説明したが、わずか半年で業績予想を再び下方修正した。今回の経営危機の引き金となった米LNGプロジェクトで追加損失などを計上し、19年3月期の連結最終損益は2149億円の赤字(前の期は64億円の黒字)になった。

市場では「底が見えるまでは手が出せない」(国内証券アナリスト)と突き放した見方が多い。ただ、思い切った損失の計上に踏みきったことで、ある監査法人の幹部は「潜在的なリスクが顕在化し、経営の透明性はあがった」と評価する。「原価の適時見直しの姿勢が徹底されれば、管理体制の強化にもなる」との指摘もある。

今後は千代田化工の再生に向けた動きが焦点となる。三菱商事は経営危機の理由を3つあげた。「受注時のリスク管理が非常に甘い。経営資源を超えた数の案件を取り過ぎてサポート体制が弱い。現場の報告が上がらないなどプロジェクト管理がシステム的に対応できない」(垣内社長)

千代田化工の最優先課題はリスク管理体制の抜本的な見直しだ。三菱商事出身者として17年に初めて社長に就いた山東氏は社長にとどまり、最高執行責任者(COO)として再建計画の遂行に専念させる。

会長兼CEOには3月末まで三菱商事で機械グループCEOだった大河氏が就く。プラント業務に精通しているうえマネジメント能力もあり、大河氏を中心にガバナンス体制を強化する。

17年に三菱商事出身者として初めて千代田化工社長に就いた同氏は最高執行責任者(COO)として再建計画の遂行に専念する。7月までに立ち上げる予定の「戦略・リスク統合本部」にも責任者に三菱商事幹部を就かせる。垣内社長は「三菱商事のリスク管理の第一人者を送る」と語る。

収益の安定のため、LNG一本足の経営からも脱却する必要もある。千代田化工の売上高に占める石油とガスの比率は7割程度。世界では成長有望な再生可能エネルギーに進出する動きが加速している。仏テクニップは米FMCテクノロジーズと合併し海洋設備を強化するなど多様化が進む。

千代田化工は再生エネではこれまで手掛けてきたメガソーラー(大規模太陽光発電所)を中心に手掛けてきた。今後は洋上風力発電への進出をもくろむ。洋上風力は陸上タイプに比べて部品点数も多く、大型プラント建設のノウハウを生かせるとみる。山東社長は「蓄電設備と組み合わせるなど、顧客の要求に合わせてきめ細かな対応ができる」と話す。

千代田化工が再生に急ぐ間も、ライバルの世界のプラント業界では巨大化やビジネスモデルの多様化が進んでいる。欧米勢ではLNG4強の一角、仏テクニップの18年の売上高は約125億ドル(約1兆3700億円)、米ベクテルはLNG以外にダムや空港などインフラ分野も担い、売上高は約255億ドルに達する。プラントや建設などの総合メーカーとして存在感を高めている。

欧米各社は日本勢が米国で苦闘するのを横目に、M&A(合併・買収)で規模を拡大してきた。テクニップは16年に米FMCテクノロジーズと合併し海洋設備を強化。米マクダーモットも、13年に米ショー・グループを買収したCB&Iと18年に合併した。

千代田化工のようなプラント会社は案件を受注し続けなければ事業を継続できない自転車操業的な事業モデルで、個々のプロジェクトの採算管理が生命線となる。三菱商事は千代田化工の経営全体を見渡しながら、個々の案件にも目を光らせる難題を解決しなければならない。垣内社長は千代田化工を「日本の宝」と持ち上げた。総力をあげて再生支援体制を組んだ三菱商事。千代田化工は今度こそ再生を完遂する覚悟が問われる。(星正道、杉浦雄大)

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