2019年6月27日(木)

公務員定年、欧米は撤廃・延長 日本も65歳へ上げ検討

働き方改革
経済
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2019/5/10 6:30
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政府が国家公務員の定年の引き上げを検討している。現在の60歳から段階的に65歳まで延長する方針だ。政府は社会保障制度改革の一環として「生涯現役社会」を掲げている。高齢でも意欲さえあれば働ける社会にするため、まず国家公務員の定年を延長し、民間にも広げる狙いだ。海外ではどう取り組んでいるのだろうか。

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人事院は18年8月、国家公務員の定年の65歳への引き上げを提言した

人事院は18年8月、国家公務員の定年の65歳への引き上げを提言した

定年は一定の年齢に達したことを理由に雇用契約を終了する制度だ。企業は就業規則などで定める。2013年に施行した改正高年齢者雇用安定法で、企業は段階的に65歳までの希望者全員の雇用を義務付けられた。

とはいえ大企業でみると定年延長を選ぶのは少数派で、退職した後に再雇用する継続雇用が多い。17年の厚生労働省の調査によると、65歳定年を採用する企業は全体の2割弱にとどまる。

欧米の国家公務員制度をみると、日本以上に定年を延長したり、定年そのものを撤廃したりする例が目立つ。ドイツとフランスはそもそも日本より高い65歳定年だった。公的年金の支給開始年齢の引き上げにあわせ、両国とも定年をさらに延長する予定だ。ドイツは12年から段階的に上げ始め、31年に67歳にする。フランスも16年から上げ始め、22年に67歳にする。

■年齢による差別を禁止

英語圏の国家公務員では定年そのものの廃止も多い。米国は1967年に成立した年齢差別禁止法で、雇用の場での年齢による差別を禁じた。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどでも定年は廃止済みだ。英国は年金の支給開始年齢を2046年までにいまの65歳から68歳に引き上げる予定でそれにあわせて定年制を10年に廃止した。

定年がない国でも公務員の多くは日本の定年年齢の60歳前後で引退するという。年金や恩給の給付水準が高いためだ。稲継裕昭早大教授に聞くと「年金水準が高い米国などでは日本のように働かなくても生活に困らないため自発的に引退する職員が多い」と話す。

「公務員人事改革」(村松岐夫京都大名誉教授編著、学陽書房)によると、退職直前の最終所得と比べた年金・恩給支給額は局長級の場合、米英は日本の2倍以上だ。日本では年金支給額は最終所得の30%(年529万円)だが、米国は71.5%(同1209万円)で英国は62.1%(同1142万円)に上る。

定年制があるドイツでも恩給額は67.5%(同1150万円)。フランスは金額は日本と同程度の年528万円だが、最終所得比は59.1%と日本の倍近い。

霞が関の官庁街

霞が関の官庁街

■支給年齢引き上げも

厚生労働省は公的年金の支給開始年齢について、受給者の選択でさらに引き上げられる制度を検討する。いまは受給開始年齢の上限は70歳だが、75歳に上げて受給時の毎月の年金額を増やす案がある。

日本の年金の給付水準は欧米に比べて低いものの、平均寿命は世界トップクラスだ。支給開始年齢が他の先進国より早いため受け取れる期間は長い。定年延長や支給開始年齢の選択肢を増やせば、元気な高齢者が年をとっても働く選択をする可能性が出てくる。社会保障の担い手にまわってもらう狙いだ。

■公務員「優遇」批判も

日本国内の民間企業で働く人の賃金水準はどうだろう。労働政策研究・研修機構が15年に約6200社に聞いたところ、60歳直前(定年前)の賃金を100とした際の61歳時点の賃金は、1000人以上の大企業で「6割未満」が25.8%を占めた。

日本経済新聞社が実施した18年12月の「社長100人アンケート」でも雇用延長した場合の賃金水準について聞いた。定年前の賃金に比べて「7割」と「5割」がともに最多の18.6%だった。

日本政府がいま検討している国家公務員の定年延長では、60~65歳の賃金を退職直前の7割にする方針だ。民間と比べると政府が検討中の水準は高いようにみえる。

国家公務員の定年延長は長く検討されてきた。いまから10年前の09年、人事院の研究会は公務員の定年を13年度から段階的に65歳まで引き上げる提言を発表した。

しかし、その後は具体化が進まなかった。国家公務員の定年を延長すれば、人件費が増えるためだ。立教大の原田久教授は「定年延長は『公務員優遇』との批判を恐れる政治に翻弄されてきた。65歳定年を前提に公正な給与のあり方を議論すべきだ」と話す。夏の参院選を控えた今国会も定年延長の法案提出は見送られた。欧米も参考に公の場での議論が必要になる。

■「課題先進国」遅れた議論

日本の高齢化は世界で最もはやいペースで進む。ところが定年延長を巡る議論は欧米と比べると圧倒的に遅れている。日本で年金の支給開始年齢を60歳から引き上げ始めたのは2001年だ。25年には男性、30年には女性が原則65歳になる。仮にいまから数年後に定年を段階的に延長し始めたとしても、年金の支給開始年齢の引き上げに追いつかない。

欧米と比べて日本の国家公務員OBが受け取る年金額は低い。一方で年金の受給開始まで社員を再雇用している民間企業の賃金と比べれば、最終賃金の「7割」は高水準ともいえる。欧米や民間企業と比較すると定年延長をしたときの給与水準をどう定めるかは難しい。だが「課題先進国」を掲げる日本としてはいつまでも避け続けることができないはずだ。(児玉章吾)

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