2019年5月27日(月)

静岡の「ふじのくに せかい演劇祭」 着実な定着ぶり

文化往来
2019/5/11 6:00
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連休恒例の「ふじのくに せかい演劇祭」が、4月27日から5月6日まで静岡市で開かれた。前身の催しから数えて20年目、4演目で完売が出て着実な定着ぶりを印象づけた。

駿府城公園で上演されたSPACの「マダム・ボルジア」(猪熊康夫撮影)

駿府城公園で上演されたSPACの「マダム・ボルジア」(猪熊康夫撮影)

演劇祭を企画運営する静岡県舞台芸術センター(SPAC)の専属劇団は、新作「マダム・ボルジア」(ユゴー原作)を駿府城公園の特設野外劇場で上演。平らに広がる劇場は前例がほとんどない。役者たちは地べたを歩き回り、観客は向こう側にもある客席へと途中で移動し、後半をみるという趣向だった。

SPAC芸術総監督の宮城聡(上演台本・演出)は、物語を日本の戦国風俗に落とし込んだ。ルネサンス期イタリアに生きた悪女ルクレツィア・ボルジアは、敵を毒殺する無慈悲さと母の愛の間で引き裂かれる。ギリシャ悲劇のような激烈さが、美加理のハラのある演技で浮き彫りにされた。

折からの悪天候で劇場設営や稽古に余裕が出なかったようだが、阿部一徳以下、鍛錬の行き届いた役者たちが即興的演技で客席を引きこむ手腕にうならされた。生演奏や自動車の乱入が鮮烈で「劇団力」を全開させた。

SPACは舞台芸術公園の野外劇場「有度」でも、旧作「ふたりの女」(唐十郎作、宮城演出)を上演、主演のたきいみきが女の聖性と魔性を演じ分けた。劇団はいま、充実期を迎えている。

海外の4舞台のうち「Scala――夢幻階段」と「マイ・レフトライトフット」は、演劇の最新潮流を感じさせるものだった。前者は身体表現の極限を追求するヌーヴォー・シルク(新しいサーカス)。階段のある空間で男が宙に浮いたり、女が液体のようにグニャリとなって穴に吸いこまれたりする。演出と美術を手がけるフランスのダンサー兼振付家ヨアン・ブルジョワは、人間存在のはかなさを軽妙にとらえる。

一方、後者は障害者と演劇の関係を見すえる異例のミュージカルだった。スコットランドの小劇団が映画の舞台化を試みる物語。難病ものは受けるとばかり、インクルージョン(包括)といった今どきの言葉を振りかざす。

スコットランドで活躍する作・演出のロバート・ソフトリー・ゲイル自身、脳性まひの少年だったという。役は障害者が演じるべきではないか、健常者が演じることで理解が進むのでは、そんなふうに問題が示される。下ネタやギャグを満載し、障害者は哀れむべき存在という見方に抗するしたたかな作意だ。役者の演技力、歌唱力の高さによって一流のエンターテインメントになっていた。

市街地で無料パフォーマンスを同時多発的に繰り広げる例は、日本では静岡くらい。今年は人気劇団のままごと、範宙遊泳、ロロが参加した。宮城聡は「劇場は敷居が高いと思っている人たちに演劇に接してもらいたい。フェスティバルのかねての狙いが実り始めた」と手ごたえを語っていた。

(内田洋一)

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