2019年9月18日(水)

瀬戸内国際芸術祭の春会期 島の記憶、着想の種
文化の風

関西タイムライン
2019/5/10 7:00
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世界最大級のアートイベント「瀬戸内国際芸術祭2019」の春会期が開催中だ。開幕から来場者数は前回を上回るペースで伸びている。様々なルーツや体験を持つ作家たちが、瀬戸内の島々で生み出した約150点の作品群。来場者を大いに楽しませてくれる。

「辿り着く向こう岸―シャン・ヤンの航海企画展」の前でポーズをとるシャン・ヤン(小豆島の草壁港)

「辿り着く向こう岸―シャン・ヤンの航海企画展」の前でポーズをとるシャン・ヤン(小豆島の草壁港)

■家具でつくる船

牛の形をした小豆島のおなかの辺り。フェリーが発着する草壁港の陸地に巨大な木造船がたたずむ。船体は使い古しの家具や調度品、建具などでできている。隣に高さ11メートルの木造の塔が立つ。「辿(たど)り着く向こう岸―シャン・ヤンの航海企画展」だ。

中国人作家のシャン・ヤンは「様々な出会いや希望を乗せ、未知の場所を目指す船を作りたかった」と話す。「芸術航海」と銘打ち、作品を2015年から中国やドイツで制作・展示し、作品も変化してきた。

シャンの原体験は1960年代後半からの文化大革命。父親と生き別れ、母親とともに漁船で父親を捜しに出た。不安の中で見いだそうとした希望。今回、家具や調度品などは中国各地で集め、再生した。作品からは「家族の再生」というテーマが読み取れる。

ただ、難しいテーマは抜きにしても楽しめるのが瀬戸芸の作品だ。今作も船に乗っかったり、船底部分に入ったりと、子供たちに大人気。訪れる人は乗組員だ。「皆の経験や歴史、文化も組み合わせ、だんだんと進化していく」とシャン。夏会期以降、船も塔も新たに作る全長27メートルもの船の一部となるという。

瀬戸大橋を見上げるロケーションの沙弥島はかつて離島だったが現在は埋め立てで陸続きだ。参加は春会期のみ。小・中学校跡を使った会場を訪ねると、国内外の作家自身のルーツと土地の関わりを形にした作品が集まっていた。

■塩田がモチーフ

地元出身の南条嘉毅の「一雫(しずく)の海」は、沙弥島周辺で盛んだった塩田に想を得たインスタレーションだ。塩田で働いたという祖父の経験や100年前の写真の風景、そこから一変した現在の風景まで「土地に積み重なった記憶、時間を表現した」。テーマの異なる暗い3つの部屋を通り抜け、一滴の水が長い道のりを経て海へ、あるいは塩が結晶化していくかのような時間の流れを体感する。

「月」をモチーフにした作品を作るレオニート・チシコフも塩田に着目。塩で想起した故郷、ウラル山脈の雪を題材にインスタレーションを制作した。鈍く青い月の光と塩を砂絵のように動かす映像、雪が積もった湖畔の風景を描いた立体作品などと「月と塩をめぐる3つの作品」を構成。「私の記憶と地域の記憶をつないだ」と話す。

海外の作家たちの記憶が、それまで縁の無かった島の記憶と結びつき、作品が生まれる。イランがルーツのアナヒタ・ラズミの「フードクラブ」はイランと日本の食文化を融合した新たな「イラン+日本食」を生み出すことを目指す。両国の歴史を振り返り「80年代後半から90年代にかけ、日本にイランの不法滞在者が急速に増え、そしていなくなった。もし、あの時多くのイラン人が日本に定着し、今も暮らしていたらどんな文化が生まれたかを想像させられる」と話す。

瀬戸芸も4回目。前回の来場者数は3会期合わせて104万人だった。今回は「海の復権」というテーマのもと、前回を大きく上回りそうなペースだ。作品がもたらす非日常的な体験が春の休日を忘れられないものにする。瀬戸内の島々は関西からアクセスがよい。島々を巡り、アートが持つ力を改めて実感したい。春会期は5月26日まで。

(佐藤洋輔、西原幹喜)

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