ホンダの今期販売目標、異例のマイナス 四輪が苦境

ホンダは2020年3月期の世界販売で前期実績に比べて下回る目標を掲げた。販売低迷などで利益率低下が続く四輪事業では既に英国などで生産縮小を決めているほか、派生車種の絞り込みや米国などでの事業効率化にも着手し収益改善につなげる。異例の販売方針となるが、経営課題はなお山積しており、一連の改革の芽が出るまでは予断を許さない。
8日発表した20年3月期の世界四輪販売の見通しは516万台と、19年3月期の実績(532万台)を下回る。東日本大震災の影響があった12年3月期以来、8期ぶりに前の期の実績を下回ることになる。収益改善のため規模を追わないことを明確に示した形だ。
今回の販売計画を打ち出せたのは、一連の生産拠点の再編にメドをつけたためだ。15年の就任から4年がたつ八郷隆弘社長はこれまで過去の「負の遺産」と向き合ってきた。ホンダは12年、「16年度に四輪販売600万台」という数値目標を掲げて拡大路線を突っ走った。この結果、世界各地に工場を新増設し地域ごとの専用モデルを多く導入したこともあり、効率的なものづくりが遅れ、いまにつながる四輪事業の低迷へと結びついている。
就任後、タイの一部生産ラインや狭山工場(埼玉県狭山市)、英国やトルコでも既存工場の生産終了を決断。16年に555万台あった四輪生産能力は22年には1割減の507万台となる見込みだ。中国を除くグローバルの工場稼働率も18年の90%から22年には100%となる見通しだ。八郷社長も8日、「生産の適正化には道筋をつけた」とした。
拠点再編の後に見えてきたのが、なお多い車種の削減など販売面での課題だった。8日には世界市場で販売する「シビック」などのグローバル車種は派生モデルの数を25年までに3分の1に削減すると発表。ホンダで最大の市場の北米でも現行モデルの派生数を減らす。セダン離れに対応し8月からは主力車「アコード」などを生産するオハイオ州の工場で減産にも踏み切り、販売在庫の適正化に乗り出す。

ただ、一連の改革効果が出るのは生産再編が終わる22年以降と先になる。株式市場では「四輪車の生産能力の削減は収益性の持ち直しにつながる」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の杉本浩一アナリスト)と評価する声はあるものの、QUICK・ファクトセットによると、ホンダの株価は1年前に比べ18%安。米ゼネラル・モーターズ(6%高)や米フォード・モーター(8%安)を下回る。
株式市場の評価が低いのは縮小路線の先行きが見通せないためだ。八郷社長は8日、19年3月期の決算説明会を前に、「事業方針説明会」を開催した。社長自らが経営全般について直接説明する機会が少ないホンダでは久しぶりの機会となった。
ただ八郷社長が説明に力を割いたのがホンダ独自のハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などの既存技術の目先の事業方針が中心だった。自動車業界全般に技術開発競争が始まっている自動運転技術など中長期的なテーマについては言及が少なかった。かつて時代を切り開いてきたヒット車を連発してきたホンダの未来を担う技術は見えなかった。行く先にはなお難路が続きそうだ。
前期13%営業減益
ホンダが8日発表した2019年3月期連結決算(国際会計基準)は営業利益が前の期比13%減の7263億円だった。為替相場の新興国通貨に対する円高など為替影響が営業利益を1600億円減らし、欧州での四輪車生産終了に伴う固定資産の減損損失なども重荷となった。
売上高は3.4%増の15兆8886億円だった。利益面で厳しい状況だったのは主力の四輪事業だ。米国や中国市場の苦戦などで、営業利益は43.9%減の2096億円で、二輪事業(2916億円)を3期ぶりに下回った。四輪事業の売上高営業利益率は前の期比1.5ポイント減の1.9%にとどまった。同日決算発表をしたトヨタ自動車の自動車事業(7.5%)とは対照的な結果となった。
20年3月期は売上高が前期比1.2%減の15兆7千億円、営業利益が6%増の7700億円を見込んでいる。
(古川慶一、岡田達也)