2019年5月23日(木)

米、中国「産業補助金」に圧力 関税上げ通知へ

トランプ政権
米中衝突
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中国・台湾
北米
2019/5/7 21:00
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【ワシントン=河浪武史、北京=原田逸策】トランプ米大統領が中国製品の関税を10日に引き上げると表明し、9日再開する米中貿易協議は制裁回避に向けたぎりぎりの交渉となる。米国の態度を硬化させたのは、中国の産業補助金を巡る問題だ。補助金は中国の「国家資本主義」の根幹をなすが、米国は撤廃を求める。中国は高関税を受け入れるか、弱腰批判も覚悟して譲歩するかの選択を迫られる。

「中国が約束を破ろうとしている」。米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は6日、対中批判を繰り返した。米国は10日に2000億ドル(約22兆円)分の中国製品の関税率を10%から25%に上げると表明。米国時間7日にも正式通知する。トランプ氏は6日の安倍晋三首相との電話協議でも、中国製品の関税上げの方針を伝達していた。

米中は2018年12月の首脳会談で貿易協議の開始を決めた。断続的に閣僚級協議を開き、トランプ氏も「大きな進展があった」などと繰り返してきた。

それがなぜ最終局面で暗転したのか。「米中は知財保護など90%超の部分で決着していた。ただ、中国の産業補助金を巡り最後まで折り合えなかった」。米経済団体幹部は明かす。

トランプ氏が関税上げを表明する1週間ほど前、ライトハイザー氏は「中国とは合意できない」と不満を漏らしていた。米国は協定の案文に、中国が国有企業への補助金制度の改革案を明記することで合意していたと考えていた。しかし中国は協定に明記せず、国内の法改正で対応すると後退したとみられる。ライトハイザー氏が、中国に強硬な姿勢を取るようにトランプ氏を説得したようだ。

「経済強国」をめざす習近平(シー・ジンピン)指導部は15年、産業育成策「中国製造2025」を掲げた。5000億ドルを超える巨額の資金枠を設けて、ハイテクなど先端産業に補助金を投じてきた。

これに対し、米政権は世界貿易機関(WTO)ルールに抵触する補助金の全面撤廃を要求。中国側も交渉で削減に応じるなど譲歩をみせてきた。だが交渉の最終局面で「中国は地方政府の補助金の見直しを渋るなど抜け道探しを始めた」(米経済団体幹部)という。

補助金は中国の「国家資本主義」の基盤だ。各省が補助金をてこに産業を誘致し、税収や雇用を競い合う仕組みは中国の高成長を支えてきた。米国は国有銀行の低利の融資なども補助金の一部とみなしており、習氏は地方企業や金融機関に与える影響の大きい補助金の撤廃は受け入れがたい。さらに補助金がWTOルールに抵触しているとなれば、米国が中国に「相殺関税」を課す余地が広がる懸念もある。

膠着するのはそれだけではない。米企業に技術移転を強要するのを禁じる法制度や、クラウドコンピューター事業の市場参入、医薬品のデータ保護など細かい分野で折り合っていないという。最大の争点は米国が2500億ドル分の中国製品に課す制裁関税の扱いで、米国は関税の一部維持を主張し、中国は全面撤廃を求めて対立する。

トランプ政権は強硬姿勢に出ることで補助金にとどまらず、市場開放や技術移転の分野でも中国から全面的な譲歩を引き出す狙いがある。「最終局面で交渉を膠着させ、相手に最大限の譲歩を迫るのは我々の常とう手段だ」(USTR元高官)

中国商務省は7日、劉鶴副首相が訪米し、9~10日に貿易協議にのぞむと発表した。中国外務省の耿爽副報道局長は7日の記者会見で「交渉での意見の食い違いは当たり前で、中国は誠意を持って交渉を続ける」と語った。

中国は昨年、「関税のこん棒で脅されながら交渉はできない」と政府文書に記した。米国に追加関税の引き上げを突如通告されたなかで、9日に始まる閣僚級協議への参加方針を示したこと自体が譲歩ともいえる。

天安門事件が起きて30年の節目となる6月4日も迫り、習指導部はいま世論の動向に神経質になっている。習氏は対米協議をまとめることで、共産党内の対米関係悪化の批判を封じたかったとみられるが、トランプ氏の関税上げの表明で目算が狂った。9日からの協議で米中が妥協点を見いだせるか。瀬戸際の交渉になる。

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