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朝のコース点検、労多し 競技委員も好プレー演出

公益財団法人日本ゴルフ協会専務理事 山中博史

本格的なゴルフシーズンも始まり、プロのトーナメントも毎週行われるようになりました。今回は少しマニアックな内容になりますが、トーナメントの朝に競技委員会が行うコースチェックのお話をしたいと思います。

競技委員の人たちは通常第1組のスタート約2時間前にはゴルフ場に入ります。ゴルフ場に着くとコースチェック担当の委員はさっそく、アウトとインに分かれてカートに乗ってコースに出て行きます。プロトーナメントにおいては、ティーマーカーのセット、ホールカップ切りは当日の朝の仕事です。ティーマーカーのセットは競技委員が行い、カップ切りはコース管理のベテランが行います。

では、皆さんも競技委員になったつもりで読んでみてください。

まずティーイングエリア(TA)です。TAに入りその日の風向き、特にパー3のホールではその日のホールロケーション(HL)を見て、ティーマーカーをどの位置にセットするかを決めます。例えばアゲンストの風が強いときや雨でランが出ないときなどは、使用するTAの前方、もしくは1つ、2つ前のTAにセットする場合もあります。このような可能性がある場合は事前に選手に告知し、練習ラウンドで練習できるようにする場合がほとんどです。

次に行うのは、なるべく平らな場所、芝の状態がいい場所を選ぶことです。特に終盤のホールはテレビ中継でアップになることも多く、状態が悪い場所やディボット跡だらけの場所が映ってしまうとイメージが悪くなってしまいます。そして最も神経を使うのがティーマーカーの左右の向きです。特にドッグレッグのホールは気を使います。興味深いのはドロー打ちの人がセットすると右に向け、フェード打ちがセットすると左に向くことが多いことです。

選手から「ティーマークないけど…」

左右のティーマーカーの間隔は、TAの大きさにもよりますがだいたい7~8ヤードです。個人的には、円球のティーマーカーのほうが角のあるティーマーカーより方向性が出しやすいですね。パー3のホールでは、その日のティーマーカーの位置からピンまで正確なヤーデージを測り、中継テレビ局や大会本部にその情報を提供することも仕事の一つです。

TAの周りにはごみ箱やドリンクを入れるケース(我々は「どぶづけ」と呼んでいます)があり、どうしてもゴミやペットボトルが散乱していることも多くなります。その場合には本部に連絡をして、選手が来る前に片付けをお願いすることもあります。

余談ですが、ティーマーカーのセットは若いホールから順番にやっていかないとダメですね。変にショートカットするとうっかり忘れてしまい、選手がTAに来たらティーマーカーがセットされていないなんて笑えない話になりかねません。実際何回かあった話で、トランシーバーで「競技委員さん、2番ホールのTAで選手が競技委員を要請しています」と言われ、行ってみると選手が笑いながら「ティーマークがないんだけど俺たちはどこからプレーしたらいいの?」なんてことがありました。

救済を受けられず、やっかいな朝露

次はフェアウエー(FW)です。FWでのチェックポイントは、まず朝露が降りていないかを見ます。もし降りているようなら、運営チームやグリーンキーパーにお願いして、選手が来る前にロープやホースを使って露払いを依頼します。規則上、露はルースインペディメントでも一時的な水(昨年までのカジュアルウオーター)でもありませんので、取り除くことも救済を受けることもできません。

朝露は選手にとってはけっこうやっかいで、クラブフェースと球の間に水が入るのでフライヤーになったり、逆に飛ばなかったりで、フェアではありません。ただし、FW全域を作業するのは大変ですし、時間もありませんので、通常はTAから220~320ヤードのランディングエリアを中心に、アウト・イン最初の4~5ホール(パー3を除く)だけ行います。

次にチェックするのは、前日までのディボット埋めがきちんと行われているか、ミミズなどがかき出した土がないか、グリーンエッジまでの距離を示すペイントマークが薄くなっていないか、スプリンクラーなどの散水施設による水たまりや漏れがないかをチェックします。もちろんFWだけでなく、周辺のラフやペナルティーエリアの境界の線や杭(くい)、ドロップエリアの表示、アウト・オブ・バウンズ(OB)を示す境界がきちんとできているかも併せて確認します。特に当日だけでなく、前夜に雨が降るなどした場合は、一時的な水がたまっていないか、作業車両などによる轍(わだち)などのダメージがないか気を使ってチェックします。

さあ、次はバンカーです。バンカーで見るのはもちろんきちんとならされているかですが、同時にバンカー内にルースインペディメントが落ちていないか、バンカーレイキはプレーに影響ない場所でしかもキャディーが見つけやすく取りに行きやすい場所に置かれているかもチェックします。特に風が強い日や秋は、落ち葉や木の枝がバンカー内に入っていることが多いので要注意ですね。雨の日はバンカー内に水たまりがないか、流水跡がないかもよく見ます。ホールによってはバンカーの数が多かったり、巨大なバンカーもあったりするので、すべてのバンカーをチェックするとけっこう時間がかかります。

さて、いよいよグリーンに来ました。まずは指定された箇所にホールが切られているか、HLシートに書いてある数字と合っているかを見ます。そしてホール周辺に損傷箇所がないか、ホールの深さは十分か、真っすぐに切られているか、旗ざおがスムーズに抜けるかなどをチェックします。時として、ホールカップと旗ざおの相性が悪く、旗ざおを抜こうとしたらホールカップも一緒に抜けてしまうこともあるので要注意ですね。

一番慌てるのは、当日の朝にHLを変更するときです。どういう場合かというと、前日に翌日のHLを決めるときには見えなかった古いホール跡がすぐ近くで見つかったり、グリーンを刈る機械がホール周辺に油漏れを起こしていたりしたときです。さらに予報が外れて強い雨になった場合などは、急きょ違う場所に切り替えることもあります。そうなると大変です。まず至急グリーンキーパーを無線で呼び出し、カップを切る人に来てもらいます。待っている間に新しい場所を決め、グリーンエッジとサイドからの距離を出し、本部に伝え、新しいHLシートの準備を依頼します。

カップの切り替えに立ち会い、きちんと切り替わった時点で本部に連絡し、新しいHLシートをスタートにいる係員に渡すと同時に、すでに古いHLシートを持ってスタートしている選手やキャディーに新しいシートを人海戦術で届けます。さらには当該ホールのTAに選手やキャディーに分かるように掲示します。そして大会関係者、中継テレビ局、メディアセンターなどにも新しいシートを届けるといった作業になります。この場合、新しいシートにはNo.2という数字を入れて古いシートと間違わないようにすることも大切です。このときほどチームワークが問われる瞬間はないかもしれません。

大きな責任とやりがい感じる業務

ほかには、グリーン周りの散水施設にきちんとカバーがかかっているか、選手の出入り口が傷んでいないかといったところでしょうか。僕がもう一つ見るのは、ギャラリーが入ってこられるエリアを示すためにロープをはるローピングです。例えばギャラリーが少しでも近くで見られるように、右サイドにホールが切られているときは、左サイドのローピングをなるべくグリーン近くまで持っていくように運営チームに提案することもあります。

どうでしょうか。なかなかの作業量でしょう? 特に秋から初冬にかけては日の出も遅く、これらの作業を選手が来る前にやるのはけっこう大変です。でも飛行機や電車と同じで、ゴルフトーナメントの場合は、スタート前の点検、整備が本当に重要なんです。選手の素晴らしいプレーを演出する目立たない作業ですが、大きな責任とやりがいを感じる競技委員の業務の一つです。皆さんには、ルールの裁定だけでない競技委員の仕事内容を知っていただければ幸いです。

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