2019年8月18日(日)

FRB議長会見要旨「物価上昇率の鈍化は一時的」

2019/5/2 6:04 (2019/5/2 7:00更新)
保存
共有
印刷
その他

【ニューヨーク=大島有美子】米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は1日、米連邦公開市場委員会(FOMC)終了後に記者会見した。冒頭説明要旨と主な質疑応答は以下の通り。

1日、FOMC後に記者会見するパウエルFRB議長(ワシントン)=ロイター

米国や世界の経済・金融情勢を鑑みて、我々は政策金利を据え置くことを決めた。3月の前回会合後に得たデータは我々の期待に沿ったものだった。物価上昇率は若干弱かったが、経済成長率と雇用者数は我々の予想より少し強かった。全体的に経済は堅調で、FOMCは現状の政策が適切であると認識している。

FOMCは2%の物価上昇率目標を強く目指している。昨年は4%を切る失業率を受けて物価が上がった。上昇率は3月から12月にかけて2%にかなり近づいた。これは大部分が石油価格に依存するものだ。

想定通り、石油価格の下落に先だって今年に入ってから物価上昇率は下がった。3月までの12カ月の上昇率は1.5%で、コア物価上昇率も想定外に弱含んでいる。これは一時的な要因によるものと分析している。強い雇用と経済成長に応じてインフレ率もいずれ2%に戻るだろう。

今年初めは数々の逆風が世界の見通しのリスクとなった。特に中国や欧州で、貿易交渉の不確実性と英国の合意なき欧州連合(EU)からの離脱が懸念された。

これらの地域の課題は残っているが、リスクは幾分和らいできた。英国の合意なき離脱の可能性は後退し、米中の貿易交渉には進展の報告もみられる。これらの状況は、FOMCが金融政策の調整に忍耐強くいることと歩調が合っているとみている。

我々は予備的に、長期的に成熟した資産構成についても議論をした。金融危機前は、我々の資産構成は短期債に軸足を置いていた。金融危機が起こりFRBは長期金利の引き下げを目的として大量の長期債を買った。これが経済回復を後押しした。

危機時の長期債購入により、我々の資産構成は今、長期債が中心となっている。正常化の一環として、我々は長期的な資産構成のあり方を決める必要があるだろう。この選択は複雑な問題で、政策の姿勢にも影響する。

今日の議論は、より充実した分析と議論に向けた下地となった。我々は今年の終わりに向け資産構成のあり方に関する検討に戻る計画だ。この課題を急いで解く必要はないが、我々は、これらの計画をかなり前もって伝え、かつ円滑な方法で実施するだろう。バランスシートの正常化に向けた調整は必要だ。

――現在のインフレの状況と金融政策スタンスについて。

「現在の我々の政策スタンスは適切だと思う。インフレはコア指数も含めて2018年をほぼ通じて2%近辺で推移したが、今年1~3月期には全体、コアともにそれよりも低めとなった。コアが低めになることは予想していなかった。ただ、こうした予想していなかった物価上昇率の低下の一部またはすべては一時的なものになる可能性が高い」

「この一時的な要因として資産運用サービスや衣料品価格の下落があげられるが、物価指数の(極端な変動を除いた)刈り込み平均値の上昇率はそれほど下がっていない。ダラス連銀の刈り込み平均値も2%を上回っている。仮に継続的にインフレ率が低水準となった場合、金融政策決定でこれを考慮に入れるだろう」

――年内の金融緩和の見込みについて。

「2日間のFOMC会合では米国と世界の景気と金融市場の状況について詳細に議論した。現時点で我々の金融政策スタンスは適切であり、利上げ・利下げどちらの方向に動く必要性もないとみている。FOMCメンバーは現在の金融政策に満足している」

――超過準備預金金利(IOER)がフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標の上限をやや上回っていることを懸念するか。

「IOERが上下限を少々逸脱することは重要ではない。ただ、FF金利を誘導目標内に制御することは重要だ。それが適切な金融政策であり、我々はそれを実行するツールを持っている。FF金利の誘導水準のマネー・マーケット金利などの短期金利への連動はこれまでのところうまくいっている」

――株式相場が最高値をつけ、短期金利市場で不安定な動きも見られるが、金融市場の安定がリスクにさらされているという懸念は。

「会合では金融市場の安定について議論した。金融業界以外の社債には多少の不安定要素がある。借り入れが高水準の企業が金融市場を不安定にする可能性があるからだ。しかし、金融市場全体としては不安定要素は適当な水準だ。金融システムには高水準の資本と流動性があることから衝撃にも柔軟に対応できる。家計をみてもデフォルト(債務不履行)は比較的低水準だ」

――資産価格の水準が一段の利下げに踏み切らない理由か。

「我々も金融システムへのリスクを踏まえながら長期的に金融政策を構築するが、懸念を払拭するには金融政策よりもむしろ資本流動性、金融監督、適切なストレステストなどが有効だとみる」

――振り返って昨年12月の利上げによって2%のインフレ目標を達成するのが難しくなったのではないか。インフレが低水準になって利下げの方が適切になったとはいえないか。

「昨年半ばにはインフレ率は2%で推移し、その水準を維持できるようにみえた。景気も強く、財政政策も景気にプラスに働いていた。今年1~3月期のインフレ低下は我々の利上げの影響によるものではない。むしろ、特殊要因による一時的なものにみえる」

「もしインフレ率が継続的に2%を下回るならそれは我々にも懸念となり、金融政策もそれを踏まえる必要があるだろう。インフレ率が2%を維持できない場合、低下のリスクの方が大きく、そうなれば期待インフレ率も下がる。それがインフレ低下にさらに圧力をかけ、景気が下振れすれば我々の金融政策運営もより難しくなる」

――年末までに財政出動による経済刺激策の効果が薄れるのに伴いインフレはどうなるか。

「インフレは月ごと、四半期ごとに変動するが、インフレ率を変動させる最大の要因は期待インフレ率だ。経済の停滞もそれに多少の影響を与える。それらを踏まえ、経済の停滞があればそれに対応する」

――10年以降女性の賃金が3.1%上昇した一方、男性の上昇率は2.1%だった。女性の賃金の相対的な上昇は米経済にとって問題になるか。

「データを見なければわからない。特定の期間を選んでいるようだが、長期的にそうであるか疑問に思う。全般的に、男性と女性は同じ仕事に対して同じ賃金を受け取るべきだと思う」

――男性の賃金が低下、もしくは女性と同じペースで伸びていないことは米経済にとって害があると考えるか。

「これは間接的にFRBの候補者についてコメントしているようだ。FRBの候補者と関わるのは私の役割ではない。(データの元になる)調査も見ていないのでわからない」

――4月初めにFRBの銀行間資金決済システムに障害があったが、障害はどれくらい続いたのか。今後起きる可能性はあるのか。

「決済システムは3~4時間ほど停止したが、すぐに問題を特定することができた。内部的な問題だった。問題を修正し、再発がないよう対応した」

――6月に不況の終わりから10年を迎える。15、20、25年の景気拡大を経験した国もある。米国にとってこのような長期的な拡大が現実的だと思うか。自身の任期内に不況を経験した場合、失敗と捉えるか。

「推測はしたくないが、オーストラリアなどは28年間景気拡大が続いており、可能だとは思う。私から見て米経済の拡大は続いており、成長も健全なレベルにある。労働市場は堅調で雇用も創出されている。賃金も上昇している。インフレ率は低く、我々は様子見姿勢をとることができる。インフレ率は上昇すると予想しており、2%に上昇してほしいと思っている」

――最長の景気拡大があった1990年代との類似点はあるか。

「期間の長さという点では類似点があるが、状況は全く違う。(90年代は)インフレが抑制される前のことだ。様々な時期を見ることは興味深いことだが、今は我々にとって重要な特定の課題に直面している」

――外部の政治的圧力を考慮しないと繰り返しコメントしてきたが、大統領は政治的圧力を維持するようだ。利下げし、量的緩和を開始すべきだとも言った。これらのコメントはFRBの政策決定や政策決定を国民に伝える方法にどのような影響を与えているか。

「我々は非政治的機関であり、政策決定において短期的な政治配慮は考慮しないし議論もしない。我々は常に景気の拡大と、堅調な労働市場の維持、インフレ率を2%にするという使命を目指している」

「我々のプロセスを説明すると、17人のFOMCメンバーが約10日間かけて広範な調査を行い、何千人ものビジネスや市場関係者、非営利団体、教育部門の人々と話して経済に対する理解を深める。そして(FOMCの)初日は経済や金融に関する世界の状況について議論し、翌日に金融政策について議論する。今回は、全会一致で現在の金融政策が適切であると判断した。現時点ではデータは(政策を)どちらの方向にも押していない。もちろん、データがどちらかの方向への移行を正当化していると判断すれば我々はためらわない。これが私たちの考え方で、他の要素は考慮しない」

――過去22年間でコア個人消費支出(PCE)デフレーターが2%を上回ったのは住宅バブルの時期のみだ。FRBが資産バブルを引き起こさずにインフレ率を引き上げることが難しいという懸念についてどう思うか。

「これは、近年、インフレ率が低下し、主要な中央銀行がインフレ目標を達成するのに苦労しているという事実を指す。人口動態や世界的な物価上昇率の鈍化によるものだ。金利の低下を意味し、重大な課題となっている。だから我々は金融政策や戦略、ツール、コミュニケーション方法などを再検討している」

「低金利の長期化と金融の安定性ももう一つの課題だ。金融の安定性については、ストレステストのような監督・規制ツールが最適と考える」

――1日朝に発表された米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数は2016年10月以来の低水準だったが、どう捉えるか。金融政策の引き締めが行き過ぎている兆候だと思うか。

「今回の指数はポジティブに捉えており、我々が製造業セクターから期待する内容と一致するものだ。我々は製造業セクターは穏やかな成長になると見ている。製造業は世界中で弱くなっているが、製造業セクターは(成長に対し)肯定的に貢献する要素となると予想している」

――年内の米経済の見通しは。中国や日本との貿易交渉について言及したが、貿易交渉の進展は米経済にとって追い風になると考えるか。

「年末までの米経済の見通しはポジティブで健全なものだ。この見通しの背景には個人消費と事業投資がある。3月の小売売上高と自動車販売は強かった。ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)も堅調で、個人消費の支えとなる。金融情勢はより緩和的で、信頼感も高い。賃金も上昇しており、個人消費を支えるだろう。これらが今年の見通しの重要な部分を占める。事業投資もポジティブとなるだろう」

「貿易交渉に関しては、不透明感が解消されれば企業の景況感にポジティブに働くだろう。貿易交渉が始まった頃から、不透明感に対する懸念を多く聞いてきた。貿易交渉が成功したら利益は次第に表れると見ている。長期的には重要だが、効果がすぐに感じられるということはないだろう」

――インフレ率を抑制している一時的な要因とは何か。これらの要因は今後なくなると思うか。

「いくつかの要因があるが一つは資産運用サービス料だ。これは資産価格が下がった後に遅れて低下する傾向がある。他には衣料品価格や航空運賃などがある。また、インフレ率を測る方法にも複数の方法がある。上下の大きな動きを考慮せずそれぞれの製品やサービスのインフレ率の平均的な動きを見る方法ではそれほど低下していない」

「17年3月には価格競争で携帯電話料金が大幅に低下し、コアインフレ率を1年間にわたり引き下げたが、我々はこれが一時的なものと判断した。実際に18年にはインフレ率は2%となった」

「インフレ率やこれらの要因が一時的なものかどうか注視していく。2%のインフレ目標の達成に尽力する」

――物価上昇が停滞し、それが一時的でない場合、金融政策判断で考慮すると言うが、具体的にどうするのか。利下げの可能性はあるのか。

「他にも多くの変数があり具体的に言うのは難しい。多くの変数を考慮するが、2つある使命の1つが物価安定であり、2%を目標に定めているので、それを重視し考慮する」

――FF金利が上がり続けた場合、IOER(超過準備への付利金利)をさらに調整する余地はあるか。他に短期金利の上限を(誘導目標範囲内に)おさめるために有効な戦略や手段はあるか。

「必要に応じて、FF金利を誘導目標範囲におさめるための手段を使う。再びそのような事態になるとは予測していないが、そうなれば必要なことをする。バランス・シートについては、その規模は金融の安定によって決まる。準備金への需要は今後数カ月で徐々にわかってくる。テンプレートもなければ行程表もなく、時間をかけてゆっくり進めようとしている。他のツールについては、次の会合で検討する。使うという前提ではないが、使い得る追加手段として検討する」

――消費と企業投資が4~6月期に回復するとの見通しを述べたが、成長が続いたなら、経済が過熱する可能性はないか。

「過熱を示す証拠はまったくない。インフレは現在2%を下回っており、来年に2%付近に到達するとみている。労働市場をみれば、人手不足の報告を聞くが、雇用増は力強い。賃金は物価上昇と生産性の点から適切な幅で上昇しており、過熱の兆しはない」

――賃金伸び率は4%超に回復するか。生産性の伸びは十分か。

「賃金は過去5年間、安定して上昇しており、賃金と福利厚生は現在3~3.5%の間にある。この数年、報酬と教育の低い人々の賃金が大きく伸びており、よいことだ。生産性を予測することは極めて難しいが、金融危機後の6、7年は非常に低かった。昨年はそれよりずっと高い1.9%を達成した。この水準を維持できるかどうかはわからないが、生産性は技術発展とその拡散によって向上するもので、向上はプラスだ。供給サイドをみれば、労働参加率も上向いており、伸びしろがあることを示している。これは経済がそれほど逼迫していないことを示唆しており、低インフレを部分的に説明するのかもしれない」

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。