縫い目繊細 指先澄ます 「織田たたみ」の財布
匠と巧

関西タイムライン
2019/5/13 7:01
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一瞬、高級ブランド品かと目を疑う。よく見ると財布の表面は「畳」だ。来年で創業120年を迎える織田畳店(奈良県田原本町)の小物シリーズ「織田たたみ」は、落ち着いたたたずまいが2人の職人の「本気度」を物語る。

ミシンで畳と革を縫い合わせる=写真 小幡真帆

ミシンで畳と革を縫い合わせる=写真 小幡真帆

奈良市内の財布工房「rafmani(ラフマニ)」代表の永井博さん(35)が革財布用のミシンに向かい、繊細な手つきで「胴」部分を押さえる。手にしているのは「ラウンド型」と呼ばれる三方がファスナーになった長財布だ。

「胴」と「内装」を合わせる最終工程は、縫いしろの厚さが最大8ミリ程度。僅かな角度の違いで針が斜めに入り、縫い目が不ぞろいになるため、平行に保つ技術が要求される。縦糸と横糸が編み込まれた構造に、「足を取られないように」(永井さん)縫う感覚も必要だ。

財布に使う畳表は、織田畳店からシート状で納入され、工房が裁断、縫製を手掛ける。織田畳店の4代目、織田理さん(47)から依頼を受け、永井さんが初めて畳表を縫ったのは5年ほど前。畳は扱いにくく試作品は納得いかない出来で「製品化は無理」とさえ思ったという。ところが、織田さんは「あまりのきれいさに感動した」。畳職人の熱意にほだされる形で改良を重ねた。

織田たたみは、畳の製造工程で出る端材を利用して何か作れないかと、織田さんと妻の吉美さん(45)が終業後にミシンを踏んで商品開発したシリーズだ。

日本家屋が多く残る奈良や京都には畳を仕立てて販売する畳店も多いが、ライフスタイルの変化で需要は先細り。全国畳産業振興会(京都市)によると、畳小売店は2002年に1万を超えていたのが16年には5千261店と半減した。

危機感が募る中で本業の傍ら試作した財布は同業者らの評判を呼んだ。当初は自社内で製造を模索するが、財布に関しては素人。「売るからには中途半端なものは出せない」との思いから、地元商工会に出入りする中で知り合った永井さんへの委託を決めた。革やファスナー、ファスナーの先に付ける「チャーム」まで素材や色を選び抜き、吉美さんがブランドマネジャーとなり14年、「織田たたみ」を立ち上げた。

商品として100点ほどが売れた時点で、理さん自身が持つ財布で「ほつれ」が発生。畳の扱い方を応用して製造工程を見直した。全ユーザーに連絡を取り仕立て直した経験は、本物の畳同様「表替え」ができる新サービスにつながった。耐久性への懸念などから畳表は樹脂製のみを使っていたが、今年2月からはイ草も扱うようになった。

織田畳店には7年前、初めて製造した「プロトタイプ」が残る。税込み2万7000円からの現在の製品との差は歴然だ。「畳をPRしようと始めた小物が、我が子のようにいとおしい」(吉美さん)。技術とこだわりが詰まった畳財布は、納品まで2カ月待ちという。

(岡田直子)

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