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「オープナー」は日本球界に合っているか

指名打者(DH)制やリクエスト制度など、日本のプロ野球が米大リーグから導入した仕組みは多い。本家にならう慣例は今も続いていて、今季また一つ、新たな取り組みが日本に取り入れられた。「オープナー」だ。

大リーグでは、2014年から4年連続200安打のホセ・アルテューベ(アストロズ)や、昨季36本塁打でナ・リーグ最優秀選手に輝いたクリスチャン・イエリチ(ブルワーズ)ら重量級の打者が2番を打つケースが少なくない。バントでなく強打でつなぐ上位打線は破壊力があり、そこに立ち向かう投手は初回から目いっぱいの投球が求められる。そこで、短いイニングを全力で投げる救援投手を初回のマウンドに送って難局を乗り切り、多少は負担が少なくなる二回以降に先発ローテーション投手を登板させる、オープナーが考案された。

日本ハム・金子は4月6日の西武戦で「第2先発」として三回から登板も2回5失点だった=共同

この一風変わった手法を今季、日本ハムが導入して話題を呼んでいる。4月6日の西武戦で、栗山英樹監督は先発して無失点だった加藤貴之を2イニングで降ろし、三回から金子弌大を「第2先発」としてマウンドに送った。打者7人に投げた加藤の後を受けた金子は、8番打者との対戦からスタートと、あまりプレッシャーのかからない滑り出しだったはずだが、5失点。2イニングを投げたのみで降板した。

「第2先発」の難しさ

今季オリックスから日本ハムに移籍した金子は、開幕前からオープナーへの心づもりはできていたようだが、いざやってみた感想は「先発と雰囲気が違い、うまく試合に入りきれなかった」という。一方の西武・辻発彦監督は、好投していた加藤が「2回で代わってくれた」と思わぬ降板を歓迎。第2先発への継投は、皮肉にも西武の強力打線を勢いづけるスイッチになった。

私は、一回からの6イニングと終盤3イニングの比重は同じだと考えている。前半6イニングの経過を見て勝ち試合になるか、負け試合になるかを見極め、終盤にリリーフ陣の誰を起用するかが決まってくる。そこで、まだ勝てるかどうかわからない試合の冒頭に優秀な救援投手を投げさせるのはどうなのか。2番手以降の投手が打たれて大敗でもしたら、本来、勝ち試合でつぎ込むはずの投手を先発させたことはもったいなかったということになる。

初めから救援投手の力を借りるのは、首脳陣が先発ローテーション投手を信じていないことにもなる。先発投手というのは、みんなお山の大将。「俺の球が打たれるものか」と自信過剰なくらいの人が先発投手になるわけで、そこで「おまえじゃ危ないから」と言われたら、がっくりくるだろう。

日本で今、強打者が2番を打つチームは坂本勇人と丸佳浩が務める巨人くらい。投げる側からすると大リーグほど初回のプレッシャーはないはずで、わざわざ救援投手をぶつけるまでもない。そもそも前半の失点はいくらでも取り返せるもので、大事なのはあくまで七~九回。その3イニングで逆転されて敗れれば、2敗分のショックを受ける。

 各チームが勝ちパターンの投手を最低でも3人用意するのは、終盤3イニングを無事に乗り切るため。日本ハムの加藤は終盤3イニングの担当ではないが、先発陣の士気に関わる点でもオープナーはあまり効果的な策とはいえず、日本では浸透しないのではないか。

先発投手の起用を巡っては、別の試合でも考えさせられることがあった。4月17日、阪神の矢野燿大監督は、ヤクルト相手に無失点の好投を続けていた先発の青柳晃洋を7回で代えた。球数は111。一般的には順当といえる交代なのだろうが、試合を解説していた私は違和感を覚えた。というのも、この日の青柳は尻上がりに調子を上げていた。真ん中に投げても打たれないから、どんどんストライクが取れる。六回と七回はむしろ序盤より球威があり、ともに三者凡退、ウラディミール・バレンティンらから計3三振を奪った。

阪神・青柳は4月17日のヤクルト戦で7回111球で交代も尻上がりに調子を上げていた=共同

青柳に代わって八回に登板した能見篤史は2四球を与えて降板。ピンチで3番手が打たれて2-2と追い付かれ、そのまま引き分けに終わった。この日は抑えのラファエル・ドリスが体調不良で使えず、ただでさえリリーフ陣が厳しい状況。そこで青柳が完璧な投球を見せたから、これは八回も投げるだろうと思ったのだが……。

監督というのは相手が何を嫌がるかを考えるもの。この試合でヤクルトが最も恐れたのは青柳の続投だったのではないか。好投する投手がいなくなって「よし」と思ったのは、前述した西武・辻監督のケースと同じだ。

数字よりも大事なもの

7回111球という数字が交代の判断材料になったのだろう。ただ、考えてみてほしい。4月の暑くない時期に、25歳と若い青柳がたかだか111球で「疲れてもう投げられません」とは言わないはず。中6日と前回からの登板間隔も十分に空いている。何よりイニングを重ねるごとに内容が良くなり、本人の気分が乗っている。そこで首脳陣から「おまえに任せた」と試合を託されて意気に感じ、まだ経験のないプロ初完投、初完封でもすれば大きな自信になったはず。続投の決定に数字以外の根拠があれば、たとえ打たれたとしても本人も納得できる。

数字も大事だが、何よりも首脳陣が見るべきは目の前の状況。選手の調子や相手ベンチの心理を見極め、最善の判断を下すよう心掛けなければならない。

先発投手の降板のタイミングに関して100球を目安にするようになったのは、いつごろのことだったか。オープナーと同じく球数制限も大リーグにならって導入されたものだが、闇雲にまねるだけでは本質を見誤る。次々に世に出る新しい概念を取り入れつつ、刻々と変わる試合状況に応じて采配の「適時打」を放つ。そんなプロフェッショナルの姿勢は失ってほしくないものだ。

(野球評論家)

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