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迫る5G 産業が変わる(4)「腫瘍か」遠くから判断

執刀医を取り巻いている空間は飛行機の操縦室のようだった。大画面のディスプレーに脳の表面が映し出されている。ロボットに腕を支えられながら、メスを振るう。

ここは東京女子医科大学の一角。操縦室のような空間は、デンソー日立製作所が開発に加わり2020年の発売をめざしている「スマート手術室」だ。手術の安全性や効率を高める仕組みが盛り込まれている。

たとえば様々な情報をデジタルデータにしてディスプレーにまとめ、執刀医の意思決定を助ける。脳の磁気共鳴画像装置(MRI)の腫瘍の画像に、悪性度合いの検査結果を重ね、切除に関する判断を下す。

次世代の高速通信規格「5G」を使い、スマート手術室の力を引き上げることができないか。そう考える東京女子医大が検討を始めたのが、あらゆる場所を手術空間に変えてしまう「モバイル手術室」だ。画像など大量のデータを5Gの通信網で遠隔地に送り、ベテラン医師の指示を仰ぐ。

医療の現場では今後、画像の精度が上がる見込みだ。4Kだけでなく8Kも実用化され、映像が見やすくなっていく。ただ、現在の通信網のままでは画像を遠隔地に送るとき、画質が落ちてしまう。村垣善浩教授は、5Gであれば「正常な組織なのか、腫瘍なのか境界をはっきり見分けられる」と期待する。

画像が鮮明かどうかは、どこを切除するかなどの重大な決断に直結する。高画質になる画像を遠隔地でもそのままの精度でみることができれば、手術の水準を落とさず多くの症例をこなせる。

5Gによって医療市場に生まれる付加価値は26年に757億ドル(約8兆5000億円)と見込まれている。基地局で世界トップを争うスウェーデン通信機器大手のエリクソンが、医療現場のデジタル化が進んでこれだけ成長すると予測した。

5Gによって医療現場では、遠くで画像を見る遠隔支援に加え、ロボット操作を通じた「遠隔手術」も実現するといわれる。医師の手の動きとロボットの動きの時間的なずれをなくせるからだ。

忘れてならないのは、5Gが様々な産業の可能性を広げる一方で、慎重に判断すべき場面も増えることだ。たとえば通信障害のリスクがゼロとは言い切れない。遠隔手術が本当に実現するには、安全性の担保が大きなハードルとなる。それが可能なら、日本の優れた外科医の技術が世界に発信できるかもしれない。

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