ユニコーンを待つ泥沼消耗戦(The Economist)

2019/4/30 2:00
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The Economist

投資家はビジネスの世界をよく動物で表現する。ベア(弱気)、ブル(強気)、タカ派、ハト派、ドッグ(デジタル・オンライン・グローバルの頭文字)などだ。ユニコーンは、非上場で想定時価総額が10億ドル(約1110億円)以上とされ、世界中に最先端の事業を力強く展開し、急成長する奇跡的なIT(情報技術)企業を指す。だが最近のユニコーン企業は、ただのポニー(小馬)ではないかと言われている。

■ユニコーンの問題はビジネスモデル

2019年に新規株式公開(IPO)する企業としては最大の時価総額になると予想されている配車サービス大手の米ウーバーテクノロジーズは5月にIPOする予定で、約100億ドルを調達する見込みだ。米国市場に上場したIT企業としては、中国のアリババ集団と米フェイスブック(FB)に次ぐ3位の規模になりそうだ。同業のリフトは既に3月に上場した。民泊仲介サイトのエアビーアンドビーやシェアオフィスのウィーワークも公開する可能性がある。画像共有サイト運営の米ピンタレストは18日に上場した。中国で18年に始まったIPOブームも続いている。魅力的なサービスと多くの利用者のおかげで、上場した各社の時価総額は計数千億ドルに上る。彼らとその支援者であるベンチャーキャピタル(VC)は、株式を高値で一般向けの投資信託や年金基金に売り込もうと必死だが、ユニコーン企業には一つ問題がある。彼らのビジネスモデルだ。

上場済み、または上場予定のユニコーン12社は18年に計140億ドルの損失を出した。累積損失額は470億ドルに上る。配車や共有オフィスなどのサービスは、売り上げを急拡大させるために大幅な値引きをしている。「勝者総取り」の市場を制するには、シリコンバレーの鉄則「ブリッツスケーリング」と呼ぶ猛スピードで規模を拡大させる戦略が必要だとの考え方がこれを正当化している。

だが全てのユニコーン企業が、彼らを支援する勢力が主張するような規模の経済と他社の参入を阻む"壁"を持っているわけではない。今後は様々な規制で、素早い行動と現状を打破する自由も制限される。従って投資家はIPO価格の引き下げを求めるか株式購入を控えるべきだ。IT起業家とその支援者らは、アイデアを商品化して創業し、IPOで得た資金でさらなる急拡大を目指す戦略はもはや難しいと認識すべきだ。

ユニコーンを生み出す産業は25年前は存在しえなかった。1994年にVCに流入した資金は60億ドル、VCによる投資も1件当たり数百万ドルにすぎなかった。米アマゾン・ドット・コムが97年のIPO前に調達できた額は1000万ドルだ。以来、3つのことが変化した。

クラウドコンピューティングとスマートフォン、ソーシャルメディアの登場で新興企業は一気に世界中に事業を展開できるようになった。投資家は低金利のためリターンを積極的に求めるようになった。そして米グーグル、FB、アリババや中国ネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)などの一握りのスーパースター企業が、わずかな物的資産と緩い規制の下、巨大な市場と高い利益率を手に入れ、先行企業の強みを生かして市場を独占できれば、今までの産業とは異なる形で一獲千金を実現できることを示した。以来、テクノロジーと言えばこの「魔法の方程式」を少しでも多くの産業に適用することを意味するようになり、多額の資金がこのプロセスを早めるために投じられるようになった。

■競争は激しく、規制は強化される一方

ただ、ユニコーン企業はIPOの10カ月後に破綻したペッツ・ドット・コムなど、2000年代のITバブル時代のいい加減な企業よりは実体がある。配車アプリはタクシーより便利だし、外食の宅配は驚くほど早い。音楽はファイルをダウンロードするより、ストリーミングで聴く方が良い。グーグルやアリババと同様にユニコーン各社が抱える顧客層は大きい。クラウドサービス会社にIT業務を外注できるので、中核事業で物理的資産を持たずにすむ。IPOの目論見書が示すように売上高は急拡大している。

大きな懸念は、彼らの損失が一時的な成長痛ではなく、市場の競争が激しく、移り気な顧客に起因している点だ。FBなどが、主要なデジタル市場で早期に独占的地位を築けたのは、利用者が増えるほど個々の利用者にとっての恩恵が増えるネットワーク効果のおかげだ。だが今のユニコーン各社の事業拡大計画は説得力に欠ける。配車サービス各社は顧客を囲い込もうと利用者にポイント還元を提供しているが、それで顧客が利用する配車サービスを一つに絞り込んでくれるわけではない。リフトの株価がIPO後、20%以上下げているのも理解できる。ウィーワークでなくても、オフィスや机の貸し出しはできる。資金力が豊富な競合や、既に地位のある企業との戦いを強いられるユニコーンもある。18年に株式公開した音楽配信のスウェーデンのスポティファイ・テクノロジーは、米音楽ストリーミング市場で34%のシェアを握るが、米アップルとしのぎを削っている。

ユニコーン企業が事業展開している市場はどこも競争が激しいため、売り上げが急拡大しても利幅は改善していない。経営陣は顧客を失うのを恐れてマーケティング支出を削れずにいる。各社とも利用者にもっとカネを使わせようと関連商品の開発に必死だ。他社にない圧倒的な競争力を持たないユニコーン企業には疑問符が付いてまわる。つまり、ウーバーの時価総額が、これまでの総投資額が150億ドルしかないのに1000億ドルもあるとするなら、新たな競合が参入し続けるだろうし、既存のIT大手が参入したいと考えないわけがないということだ。

外的な力も「ブリッツスケーリング」を困難にする。以前はインターネットがどんなものか想像できる議員はほとんどいなかったため、一世代前の企業はあまり規制を受けずに事業を進め、問題が生じたら謝れば、それですんだ。ユニコーン各社もこれにならった。エアビーアンドビーはホテル税をまぬがれ、ウーバーはタクシー免許に関する規制をすり抜けた。だが今日、デジタル課税の導入やデータやコンテンツに関する規制が強化されるなど猛烈な反動が起きている。ユニコーン企業の投資家向け資料には、法律上のリスクや規制強化に伴い生じるリスクについて何ページも書かれている。

これらは全て消費者にとっては良いことだ。彼らにカネが投じられているからだ。ユニコーン企業12社が消費者に提供した値引き総額は年200億ドルに上る。IT大手が君臨する検索エンジンや交流サイト(SNS)は、一部の企業の独占が進み消費者が不利益を被っているとして問題視されているが、ユニコーン企業は少なくとも他の分野で競争を生み出している。

■「ブリッツスケーリング」もはや通用しない

一方、投資家は利益が確保できない中で我慢が必要そうだ。グーグルやアリババが成功したのだから、新たに登場したユニコーンも全て成功すると考えたくなるが、実際には大半は長期の消耗戦と低利益率に直面している。経営難の企業はいずれ買収されるかもしれない。だがここにも別のリスクが存在する。ほとんどのユニコーンは外部投資家の議決権を制限しており(ウーバーは例外だ)、多くは「ポイズンピル」と呼ぶ敵対的買収への対抗策も講じている。このため買収は困難で、企業がIPOで得た時価総額に見合うだけの利益を上げる方法を見つけられなかった場合、投資家が介入できる余地は限られる。

ユニコーン企業という夢が作られたシリコンバレーや中国の活気あるIT産業の集積地はどうなっているのだろう。何十億ドルもの資金がVCやIT企業の創業者や従業員に投じられた。それがどれほどの数の豪邸や虚栄心を満たすための慈善事業、個人的な宇宙事業に使われたかは多くの人が知っている。

むしろ今問うべきは、IPOで得た資金などを新しいIT企業のためにどう再投資していくか、だ。利益を度外視して顧客を取り込む「ブリッツスケーリング」戦略はもはや通用しなくなりつつある。ユニコーン企業とは異なる新たな、もっと説得力ある事業を展開する新興企業を生み出していかなければならない。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. April 20, 2019 All rights reserved.

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