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実力均衡 上位も気抜けず 今季J1、俊英も続々

明治安田生命J1リーグは長丁場の戦いのほぼ4分の1を終えたところ。第8節終了時点でFC東京が6勝2分け(勝ち点20)の無敗で首位を走り、2位広島(同17)、3位名古屋(同16)と続く。一方、降格圏には17位仙台、18位鳥栖が勝ち点4で沈んでいる。とはいえ、現在の順位は仮のもので、上位も中位も下位もまったく気の抜けない団子レースが続きそうである。

志向が明確な大分、躍動感あふれる

驚きは昇格組の大分の奮戦だろう。8試合を戦って5勝1分け2敗の勝ち点16で4位につけている。チームをけん引するFW藤本憲明(29)は6ゴールを挙げ、アンデルソンロペス(札幌)、ディエゴオリベイラ(FC東京)と並んで得点王争いのトップに立つ。

といっても、大分の躍進は藤本の決定力に依存しているわけではない。チームとして志向するサッカーが明確にあり、そのフレームの中で藤本も輝けている。

大分のサッカーは実に大胆で、GKからポゼッションを始め、相手のプレスにひるむことなく、低い位置からボールを丁寧に運んでいく。それでいて、攻撃にもたつく感じはない。速さを追求すべきときはしっかりスピードアップしてゴールに襲いかかる。サッカー全体に躍動感があふれている。

昇格組の大分の奮戦は驚きに値する=共同

2016年から大分の指揮を執る片野坂知宏監督は、コーチとしてそれまでG大阪時代に西野朗監督(前日本代表監督)、長谷川健太監督(現FC東京監督)、広島時代にペトロビッチ監督(現札幌監督)、森保一監督(現日本代表監督)に仕えた。その修業の成果を存分に発揮している感じだ。

偶然かもしれないが、現在の上位5クラブの監督はFC東京・長谷川監督、広島・城福浩監督、名古屋・風間八宏監督、大分・片野坂監督、鹿島・大岩剛監督と全員日本人指導者だ。チームづくりの方法論はそれぞれ違っても、共通するのは細やかな指導。自分たちの長所をどう出し、短所をどう隠すか、言葉の力を借りながらダイレクトに選手に伝えられる良さがある。選手を刺激したり、行動のスイッチを入れたりするのにロスが少ない。

好調のFC東京にしても、試合中はぴりっと締まった空気が漂う。長谷川監督の威令がチームの隅々にまで行き届き、最初から最後まで怠けさせることがない。攻撃も監督が強調する「ファストブレーク(速攻)」を昨季より巧みにこなせるようになっている。体が強くなって自分でボールを運ぶこともできるようになった久保建英の成長が、そこで果たす役割は大きい。

FC東京の攻撃で久保(左)が果たす役割は大きい=共同

6月で18歳になる久保は守備でも成長の跡が見える。ここも長谷川監督に相当鍛えられたようだ。過去の例を見ると、2種登録(18歳以下)のユースチームに所属しながらJリーグに出場し経験を積んだ選手は、稲本潤一(当時G大阪)、阿部勇樹(当時千葉)、森本貴幸(当時東京V)のように後に日本代表へとステップアップしていった。こうやって「鉄は熱いうちに打て」るのがJクラブの育成の最大のメリット。鳥栖の松岡大起も久保と同じ17歳で、こういう選手がここに来て次々に現れるのは実に頼もしい。

アジアチャンピオンズリーグ(ACL)を戦いながら2位をキープする広島も立派だ。昨季までの主戦GK林卓人がケガで出遅れたが、36歳の守護神に代わって19歳の大迫敬介を抜てき。その大迫がぐんぐん伸び、昨年限りでそろって引退した川口能活や楢崎正剛をほうふつとさせている。川口、楢崎も所属クラブで10代でレギュラーになり、後に代表の正GKへと成長していった。

広島は昨季までの主戦GKに代わって抜てきされた大迫(左端)がぐんぐん伸びている=共同

大迫の登用だけでなく、城福監督はACLとJ1の戦いで大胆に選手を使い分けている。

日本のシーズンは真っ先にACLの戦いが始まり、その後、J1リーグが開幕、さらに週の真ん中にYBCルヴァンカップの戦いが挿入される形でサイクルは回っていく。ACLに出場するクラブ(今季は川崎、広島、鹿島、浦和)だけが春先のシーズン序盤、J1の戦いと掛け持ちの苦労を味わうわけである。

しかし、ルヴァンカップが始まると、J1は、ACL掛け持ち組とルヴァンカップ掛け持ち組の2つに分かれることになる。海外遠征を伴うACL組の方が肉体的には断然きついけれど、掛け持ちという条件は同じになってハンディは縮まる。ルヴァンカップが始まり、条件がそろうまで、広島は選手を使い分けながら、この難しい時期をうまく耐え抜いたように思う。

育成と勝負のバランスを見すえながら、広島は特定の選手に疲労が集中するようなことは避けている。このあたり、ずっと首位を走りながら終盤に失速した昨季の反省を見事に消化しているように感じるし、アンダーエージの代表監督としてアジアで戦う厳しさ、難しさを知る城福監督の経験が生きているようにも感じる。コーチングスタッフの意見に耳を傾けながら、相当緻密に試合ごとに戦うメンバーを選んでいるように感じる。

名古屋、ボール持てば破壊力は随一

名古屋はリーグ最多得点(16点)が示すとおり、ボールを持ったときの破壊力はリーグ随一である。目まぐるしくボールを動かしながら、サイドから中央から変幻自在に崩しにかかる攻撃は見ていて本当に楽しい。攻守の切り替えの意識が昨季より高まり、チームのバランスがぐんと良くなった。FWジョー、MFガブリエルシャビエル、シミッチといった実力者以外に、MFの和泉竜司、相馬勇紀ら日本選手の戦闘力も増しているのが好調の理由だろう。

3連覇を狙う川崎は現在7位(3勝4分け1敗=勝ち点13)。ACLとの掛け持ちに加え、中村憲剛や谷口彰悟といった大黒柱がケガがちでいまひとつ、上昇気流に乗り切れていない。ただ、このチームのスロースターターぶりは今に始まったことでもない。

新しい戦力をどう使うのか、それとも使わないのか、そのへんの整理整頓を戦いながら進めていくのが非常に上手なチームなので、テンポと距離感に答えが見つかると自然に順位も上がってくるだろう。ただ、あまりに上位陣と差がつき過ぎても大変なので、ゴールデンウイークが一つの山になる気がしている。

鳴り物入りの神戸はFWビジャ、MFイニエスタ、ポドルスキの頭文字を取って「VIP」と呼ばれるトリオの破壊力は群を抜く。パスの強弱、種類の多さはまさにワールドクラス。どこにボールを置くか、タッチの一つ一つの力加減、方向への心配りが実に繊細だ。

神戸はビジャ(手前)とイニエスタ(左端)、ポドルスキがピッチ上にそろうと見事なハーモニーが奏でられるが…=共同

ボールを扱うテクニックではなく、そこに判断を加味したスキルが高い。狙ったところにボールが蹴られるキックではなく、それに判断を加味したパスがうまい。日本の選手は、ちょっとスピードアップするとミスをするが、彼らは状況に応じてスピードを上げ下げしてもプレーがまったくぶれない。だから、適切なタイミングで適切な判断とともにプレーができる。

ピッチ上にVIPがそろうと、成熟されたおいしさ、見事なハーモニーが奏でられる。一方、ケガなどでトリオが崩れると、下げ幅は大きい。その波の大きさをどう安定させていくか。4月20日の浦和戦からファン・マヌエル・リージョ監督に代わって指揮を執るようになった吉田孝行監督にとっては大きな試練になる。

J1とJ2、降格・昇格は予断許さず

チームとしての面白さでいうと、就任2年目のアンジェ・ポステコグルー監督の哲学が浸透してきた横浜Mも見どころ満載のチームだ。4月13日の名古屋戦(日産スタジアム)で両チームが繰り広げた攻防は世界レベルだと感じた。感心したのは横浜MのCBだった。チアゴマルチンス、畠中槙之輔の2人が名古屋の攻撃を見事に受けきっていた。

23歳の畠中は3月に日本代表にも招集された、伸び盛りのDF。東京Vから横浜Mに移籍し、大選手になったDFに中沢佑二がいるが、同じキャリアをなぞる畠中には「その再来」と期待したくなるほどのポテンシャルを感じる。

J1リーグは世界でもまれな、実力の均衡したリーグといわれる。それはJ1に限らず、J2も同様になりつつあるようだ。かつてのJ1昇格争いというと、前年にJ1から落ちたクラブが1年で返り咲くのが当たり前という雰囲気だったが、今はそこも混沌としている。J2で今、首位に立つのは水戸。本命の柏は5位だ。

降格も昇格も予断を許さない。J2からJ1、日本代表へと駆け上がるシンデレラストーリーを夢見ることも可能。一方で久保のように"飛び級"を続ける、日本の従来の枠に収まらない俊英もいる。チームにフォーカスしても、選手中心に見ても、楽しみが多い、今季のJリーグである。

(サッカー解説者)

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