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裁判「主戦場」は地裁 三審制でも勝負はここで決まる

弁護士 志賀剛一

三審制とは1つの事件について3回まで裁判を受けることができる仕組みだ
Case:55知人相手に500万円の貸金返還訴訟を提起しましたが、地方裁判所と高等裁判所で敗訴してしまいました。このたび、新しい証拠が出てきたので、最高裁判所で争おうと思います。しかし、いま依頼している弁護士は「最高裁でも勝てない」と悲観的です。弁護士を代えて闘おうと思いますが、どうでしょうか。

慎重で公正な裁判を実現するための制度

皆さん、小学校や中学校で日本の裁判は「三審制」が採用されていると教わったかと思います。少しおさらいしておきましょう。

三審制とは、慎重で公正な裁判を実現するために採り入れられている制度であり、1つの事件について3回まで裁判を受けることができる仕組みです。第一審の判決に不服な場合には上級の裁判所に訴えることができます。これを「控訴」といいます。

さらに、第二審の判決に不服な場合、上級の裁判所に訴えることができます。これを「上告」といいます。裁判所が扱う事件には民事事件、刑事事件、家事事件などがありますが、相談の内容は貸金返還請求のケースですので、ここでは民事事件を中心に話を進めていくこととします。

請求金額、140万円以下なら第一審は簡裁

民事事件の場合、訴訟の目的となる価額(訴額といいます)が140万円以下の場合、第一審は簡易裁判所になります。貸金返還請求であれば、返還を求める金額=訴額になります。第一審が簡易裁判所になる事件では、第二審(控訴審)は地裁になります。そして、第三審(上告審)は高裁で、最高裁ではありません。

訴額が140万円を超える事件における第一審は地裁、第二審は高裁、第三審は最高裁となります。あなたの請求額は500万円とのことですので、第一審が地裁、第二審が高裁で審理されたわけですね。

控訴審は第一審の「続き」をする裁判

さて、三審制というと、運動会の綱引きのように、勝敗が1回ずつリセットされ、3回勝負ができるような感覚を持った人が多いように感じます。三審制という言葉は頭にインプットされているものの、どういう裁判を3回やるのか、具体的なことは小中学校で教わっていないので、無理からぬところではあります。

言葉のイメージからなのか、地方→高等→最高と上級審になるにしたがって、裁判官の「格」が上がり、審理がより丁寧になると思い込んでいる人もいます。これは大きな誤解です。

まず、控訴審は法律用語では「続審」と呼ばれています。第一審の続きをする裁判という意味です。このため、第一審で行われた内容を最初からやり直すわけではありません。ちなみに、刑事裁判における控訴審は「事後審」と呼ばれ、原則として新たな裁判資料の提出は認められず、第一審で取り調べた証拠に基づき判断され第一審判決の当否を事後的に審査する手続きです。

民事の控訴審は建前上は続審ですから、第一審で出せなかった証拠があれば、それを提出することは制度上は可能です。しかし、その証拠がなぜ第一審で提出できなかったのかが高裁では問われることになるでしょう。

また、このところ民事事件の高裁は限りなく「事後審」化しているといわれています。最近では、第1回の口頭弁論期日で結審する割合が8割近くもあり、新たな証人尋問の申請などは認められないことが多くなっているのです。

第一審の結論が高裁で覆ったのは23%

その場合、結論の多くは第一審と同じになります。2017年の司法統計では、高裁で終了した事件1万3744件中、判決に至ったものが7973件。そのうち原判決取り消し、つまり第1審の結論が覆ったものは1891件(判決に至ったもののうち23.7%)となっています。

原判決の取り消し率はここ10年間、おおむね20%台の前半です。つまり、控訴しても4~5件に1件しか結論が変わらないわけです(もっとも、4~5件に1件も結論が変わるのかという見方もあると思います)。

ちなみに、前述の統計では終了した事件のうち判決に至っていない件数がかなりありますが、その大半は和解による終了です。17年の司法統計では、高裁で終了した事件中、4365件(31.8%)が和解で終わっています。

「高裁はけしからん、もっと時間をかけて審理せよ」と思われるかもしれません。実際、控訴審が事実上の事後審化していることへの批判もあります。しかし、なぜ高裁が1回の審理で結審するのかというと、それは第一審の審理が充実していることの裏返しともいえます。

つまり、主戦場は第一審、地裁なのです。だから、地裁での裁判こそ一番頑張らなければならないのです。重要な証拠が第一審の段階で見つからないということでは、すでに負けも同然です。

最高裁、憲法違反かどうかを審理

さて、相談のケースでは地裁、高裁と敗訴して今度は最高裁に上告して闘いたいとのことです。担当の弁護士が悲観的な見通しを示しているとのことですが、まさに私も同意見です。上告に際し、手数料として印紙を貼らなければなりませんが、その費用の無駄であろうと私も考えます。残念ですが、裁判はここで断念するのが賢明です。

第一審、控訴審が事実審(事実問題と法律問題をあわせて判断する裁判)であるのに対し、上告審の法的性格は法律審(法律判断のみを行う裁判)です。民事訴訟法が定める上告理由は、判決に憲法の解釈の誤りやその他憲法の違反、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反などに限定されています。

上告審の法的性格は法律判断のみを行う裁判だ

また、上告以外に「上告受理申し立て」という制度があります。これは控訴審の判断に過去の判例違反や法令解釈に関する重要事項が含まれている場合に、例外的に最高裁が上告を受理することができる仕組みです。

しかし、受理するかどうかは最高裁の裁量で、ほとんどが不受理で終わります。最高裁は法律審であって、事実認定は原則として下級審の行ったものに拘束されます。このため、証拠調べをすることはありません。「新たな証拠がでてきたから」というのは、憲法違反でも明らかな法令違反でもありません。そもそも上告や上告受理申し立ての理由にならないのです。

17年、民事での上告で原判決破棄はゼロ

17年の司法統計によれば、民事訴訟において上告された件数は4106件ですが、原判決が破棄されたのは1件もありません。次に、上告受理申し立ては2244件ありますが、ほとんどは不受理です(2199件)。上告した側の取り下げなども22件あります。2%の狭き門をくぐり抜けた23件のうち、原判決破棄はわずか14件となっています。

ちなみに、最高裁では上告を棄却するときには、口頭弁論を開く必要がありません。これに対し、原判決を変更する場合には、被上告人にも反論の機会を与える必要があるから口頭弁論を開くことになります。そのため、上告審で口頭弁論が開かれるということは、原判決を何らかの形で見直すことを意味しています。

最高裁の口頭弁論に立ち会う機会はめったにありません。私も30年を超える弁護士生活の中で、最高裁の口頭弁論に立ち会ったのはわずかに2回です。

志賀剛一
 志賀・飯田・岡田法律事務所所長。1961年生まれ、名古屋市出身。89年、東京弁護士会に登録。2001年港区虎ノ門に現事務所を設立。民・商事事件を中心に企業から個人まで幅広い事件を取り扱う。難しい言葉を使わず、わかりやすく説明することを心掛けている。08~11年は司法研修所の民事弁護教官として後進の指導も担当。趣味は「馬券派ではないロマン派の競馬」とラーメン食べ歩き。
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