「3倍3分法」で増やす分散投資(話題の投信)
日興アセットマネジメントが2018年10月に運用を始めた「グローバル3倍3分法ファンド」(1年決算型、隔月分配型)は、これまでにない運用手法を用いるバランス型の投資信託として注目を集めている。複数の資産に分散投資するバランス型は株高局面でリターンが伸びにくいのが弱点だが、このファンドは先物取引を活用して「増やすための分散」を目指す。
投資資産規模を純資産の3倍に
投資対象は国内外の株式、不動産投資信託(REIT)、債券。このうち日本の株式と国内外の債券部分に先物を使うことで、実際の投資額(純資産総額)の3倍相当を運用するのと同じ成果が得られる仕組みになっている。つまり100万円を投資すると、その3倍の300万円を投資したのと同程度のリターンが狙える「レバレッジ付き」のファンドだ。
基本的な資産配分は株式が20%、REITが13.3%で、債券が66.7%。この資産配分は日興アセットがこれまで蓄積した知見を生かして導き出した「長期投資にふさわしい効率的な分散ポートフォリオ」といい、各資産の値動きによって資産のバランスが変わった場合はリバランス(資産配分の再調整)することで、原則として配分比率をもとの水準に調整して運用を続ける。
このポートフォリオのままレバレッジをかけて「3段重ね」にすることで、投資資産の規模は純資産の300%に膨らむ(図表1)。資産の内訳も株式が60%、REITが40%、債券が200%と、それぞれ3倍になる。そうすることで(1)大きく下げない(全体の3分の2を債券にあてることでリスク低減)、(2)上がるときにはしっかり上がる(60%を株式、40%をREITにあてることでリターン追求)――という2つの特性をそなえた。
シンプルな運用、低コストを実現
先物取引を活用する目的は、運用資産を3倍にするためだけではない。海外の債券投資に先物を使うことで、為替変動リスクを抑えることもできる。現物投資だと元本まるごと為替リスクが生じるが、先物なら差し入れる証拠金と債券の価格変動の部分に、影響が限られるからだ。
そもそも「3分法」は3つの資産(株式・REIT・債券)に分散投資する運用手法。株式やREITとは逆の値動きをする債券を組み合わせることで下げ相場に強いつくりになっている。ところが日本から海外債券に投資する場合、株やREITの値下がりと一緒に円高・外貨安が進んでしまい、せっかくの債券高が吹き飛ぶケースが少なくない。債券先物を使うと、こうした事態を避けやすくなる。
仕組みこそ複雑に見えるが、運用自体はいたってシンプル。どの資産も市場平均との連動を目指すインデックス投資で、指数の構成銘柄を機械的に売買するパッシブ運用だ。その結果として低コスト化を実現できた。実質信託報酬は税込みで0.4752%と、バランス型投信の平均(1.1946%、ETFやラップ専用を除く国内公募追加型株式投信を対象にしたQUICK集計値)の半分以下だ。
構想15年、設定半年で実力発揮
「3倍」にも意味がある。事前の内部テストを繰り返してたどり着いた結論がこの倍率だ。株式より低いリスクでより高いリターンを目指せるのが3倍で、倍率がそれ以上でもそれ以下でもリスクが上振れしたり、リターンが下振れしたりするという。
設定以来の運用成績を見ると、このファンドの特徴がよくわかる(図表2-a)。運用開始の18年10月4日から年末にかけて世界の株式相場が大きく下げた局面では持ちこたえ、年明けの戻り相場では株式に見劣りせずに上昇。この半年で早くも実力を発揮した。
株、REIT、債券などあらゆる資産が同時に値下がりした米リーマン・ショックのような局面では、このファンドも基準価格の下振れが避けられない。先物取引を使わない通常のバランス型と比べるとリスクが高く(図表2-b)、日々の値動きはそれなりに大きい。一時的な値下がりにひるまず長期投資を続けるには、買うタイミングを分散する積み立て投資が有効だろう。

開発を担当した日興アセットの有賀潤一郎・商品開発第一部長らが目指したのは、「株式ほど下がらず、株式のように上がる、増やすためのバランス型ファンド」。商品化には構想から15年の年月がかかった。商品設計上の技術的な問題やコスト面の制約といった逆境を乗り越え、具体的な投資資産などについて投信ブロガーらの意見を取り入れながらようやく目標の実現にこぎつけた。
3月末時点で設定来のリターンは、1年決算型で12.03%。4月に入って大手証券が販売に加わり、資金流入額も徐々に増えている。3倍にパワーアップした新しい分散投資のスタイルが、資産形成層の選択肢として定着していくかどうか。今後の商品開発競争の行方なども注目される。
(QUICK資産運用研究所 望月瑞希)