2019年8月20日(火)

金型の精緻 食卓に咲く ステンレスの微細加工(もっと関西)
ここに技あり

関西タイムライン
2019/4/22 11:30
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箱型の工作機械の中で、超硬合金の刃物がステンレス材と格闘する。シャープペンシルの芯ほどの刃先が1分2万回転の高速で動き出すと、角材は削り出され、表面には幾何学的な花の模様が刻まれた。金型製造の武林製作所(大阪府八尾市)が開発したナイフやフォークを置くカトラリーレスト(箸置き)。小さな金属製品はものづくり企業の技とプライドの結晶だ。

シャープペンシルの芯ほどの刃先で桜の模様を描く

シャープペンシルの芯ほどの刃先で桜の模様を描く

ステンレスは切削が難しい。熱伝導率が低いため、発生する高熱が逃げにくい。切りくずが溶着しやすい。ともに刃物の摩耗を早める要因になる。工作機械はプログラム通りに3次元の動きを再現するが、1000分の1ミリ単位の微妙な調整が欠かせない。職人の藤田昌孝さん(44)は「刃物の先端が丸くなると、表面で滑って切削音と振動音がわずかに変わる」という。

刃物は5種類を使い分ける。刃先は半球状なので、彫る深さによって線の太さも変わる。最後は別の職人がやすりで滑らかに磨き上げる。

できあがったカトラリーレストは横80ミリ、縦10ミリ、厚さ15ミリ。富士山をイメージした優美な曲線を持つ。山の斜面に刻まれた菊や桜など花の模様には微妙なくぼみがあり、見る角度によって表情が変わる。2018年度の大阪製ブランド認証でベストプロダクトの1つに選ばれた。

細密な加工技術は歯ブラシの柄の金型づくりで培われたものだ。歯ブラシの形状は磨きやすさの追求とともに複雑になり、金型には厳しい精密さが求められる。たい焼き器のように上下に分かれた金型を重ね合わせ、加熱して溶かした樹脂を高圧で流し込んで柄ができる。金型の縁が摩耗すると、つなぎ目にバリが出る。金型表面の磨きが不十分だと、柄の表面に光沢が生まれない。金型は99.9%が良くても、0.1%のミスがあれば不良品になる。

「高い技術を一般の人に見てもらえる自社ブランド製品をつくりたい」。武林美孝社長(46)の思いを出発点に、大阪府の商品開発プロジェクトに参加した。当初は歯ブラシ以外のプラスチック製品をつくろうとしたが、金型のコストがかかりすぎると断念。発想を変え、金属を削り出してつくる消費財へ方向転換した。カトラリーレストに続いて、ワインのボトルコースターも発売した。

バブル崩壊後に中国に流れた金型の注文も、徐々に日本に戻ってきた。だが「職人を抱える高コスト体質は変えられず、高品質路線を極めるしかない」(武林社長)。初の自社製品に付けた「ITADAKI(イタダキ)」のブランド。食卓で発する言葉に、技術の頂点を追求する覚悟が重ねられている。

文 大阪地方部 木下修臣

写真 小幡真帆

カメラマンひとこと 刻まれた桜を強調するため半逆光で撮ることに。だが、箱型の機械に大きな照明機材は入らない。小型ライトを持った左手を伸ばし、模様が最も浮かび上がる光の当たり方を探る。イメージ通りの一枚を撮り終えるのに予想以上に時間がかかった。おわびすると、「自分たちもものを作っているから分かります」。その言葉が私の胸に刻まれた。

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