大人になったビリギャル 教育を学びに大学院へ行く
小林さやかさんインタビュー(上)

ギャルの女子高生が慶応大学に合格するまでを描いた本と映画が大ヒットした「ビリギャル」。U22読者の中には、受験勉強の支えにしていた人もいるかもしれない。そのビリギャル本人、小林さやかさん(31)が4月、大学院に入学した。全国を講演して回るうちに学び直しの必要性を感じるようになったからという。「あんなに勉強嫌いだったのにね」と笑うさやかさんにU22はインタビューを実施。これから随時、大人になったビリギャルの学び直しリポートをお届けする。(聞き手は藤原仁美)
「頑張ってみてよかった」とみんなに伝えるのがビリギャルの使命
――「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」(坪田信貴著)の出版が2013年。映画は15年でした。さやかさんの人生、急転換したでしょう?
そうなんですよ。ビリギャルの本が出版されたときはもう慶応を卒業していて、私は25歳。その後結婚して、しばらくたってから映画になりました。本は120万部も売れて、講演とかイベントに呼ばれるようになったんです。
中高生の子たちと会って色々お話をするんですけど、みんなあきらめちゃってるんですよね。「私はさやかちゃんじゃないから無理だよ」とか「私には、さやかちゃんのお母さんみたいな親がいないから」とか。
たしかに、ああちゃん(さやかさんの母親)はすごい人です。私のことをいつも信じて勇気づけてほめてくれた。でもね、「私には無理」って若い子たちが言うのをきいて、「それは仕方ないね」って思えませんでした。かつてはあの子たちと同じだったから。
高校生のあのとき、(塾講師の)坪田信貴先生に出会わず、勉強にチャレンジしなかったら、大学にも行けず狭い世界で暮らしていたと思う。私は勉強して慶応に入って世界が広がりました。「頑張ってみてよかったよ」というメッセージを届けるのが、ビリギャルで有名になった私の使命なのかな。
「教育の現場を見たい」と札幌の高校でインターンを始めた
――さやかさん自身も学校教育の中で何かを伝えることに興味が出てきたのですか。
札幌新陽高校(札幌市南区)という高校で2018年の春から夏までインターンをしたんです。
――これから先生になるということ?
そういうわけではないのですけど、荒井優さんというもともとはリクルートとソフトバンクに勤めてたスーパーエリートの校長先生がいるんです。荒井先生がフェイスブックで公開していた「校長日誌」のファンで、どうしても荒井先生に会いたくなって直接、ものすごい長文のメッセージを送って。そうしたら、荒井先生が「会いましょう」って返信をくださった。
荒井先生に「大学院に行って勉強し直します」と伝えたら「すごくいいと思う。でもまず、現場を見るのが一番だよ」って。それで、札幌に引っ越して「校長の右腕」としてインターンに入りました。
――高校でのインターンでどんな出会いや気づきがありましたか。
新陽高校は決して偏差値の高い学校じゃないんです。でも、ワクワクをみつけてがんばってる子たちがいる。きっとこの学校の先生たちが、なにか生徒たちにワクワクを伝えてるんだなと気づきました。
インターンで出会った子の中にシオリという女子高生がいます。ビリギャルだったころの私と同じで、勉強もできないんだけど、とにかく私の話に真っ先に反応して、いつも私にくっついてきてくれた。
かつての自分を見るようなシオリという少女との出会い
インターンが終わったら私は新陽高校を離れないといけないんだけど、シオリに「私は残ってほしいと思ってるけど、さやちゃんの夢ってなに?やりたいことがあるの?」って聞かれたから「うん、幸せな子どもを増やしたいんだよね」って答えた。
シオリはたぶん私には帰ってほしくないけど、私のことを考えると引き留めちゃいけないとか、いろいろ葛藤したんだろうなあって。それである日、職員会議に乱入したんだっ て。すごくないですか?「さやちゃんの送 る会をやって、ビデオレターを作りたいから先生たち協力してください」って。もちろん先生たちは大賛成してくれて、学校中でカメラを回して30分のビデオレターを作ってくれたんです。昔の私以上に勉強できないし、普段しゃべってることもたどたどしくて よくわかんないんだけど、それきいて感動しちゃった。

私が学校を離れた後も、札幌から東京まで私に会いに来てくれた。高校では700人ぐらいの生徒に出会ったけれど、東京まで会いに来てくれたのは彼女だけです。「その行動力すごいよ」って思って。だから、知り合いと一緒にある大手IT企業の本社に行く機会があったときに、シオリも連れて行ったんです。
シオリはもともと、スキーのモーグルで世界レベルで戦える選手だったのだけど、高校生になった頃には情熱を失ってスキーはやめちゃってた。そんな話を、たまたまそこの企業の人たちにしたら、「モーグルやってるの?すごい。スキー場とか作っちゃえばいいじゃん!オリンピック出て名前知ってもらっておけば、面白いスキー場を作れそう」って話し出した人がいたのね。
このときのシオリの表情は一生忘れられないと思う。表情がぱあーっと一気に明るくなって、目に光がともった感じ。「私もそれやりたい!」ってシオリが言い出した。「さやちゃん、わたし目標がみつかったよ」って。シオリはいま、フリースタイルに種目を変えて五輪を目指してもう一度スキーをがんばっています。
もっと幸せな子どもを増やすために大学院で学び直しへ
――この春に大学院に入ったのですね。それは、シオリちゃんを含めたこれまで出会った子たちへの思いからですか。
自分がビリギャルとしてメッセージをどんどん発信するには、もっと勉強しなきゃいけないなと思って、今年4月に聖心女子大学大学院に入りました。久しぶりの学校です。あんなに学校嫌いだったのに、学び直そうと思うなんてね。

慶応を受験するとき1日15時間、死ぬ気で勉強して総合政策学部に合格したから、「あーこれでもう勉強しなくていい」って思っちゃって。正直、あまり慶応では勉強しなかったんですけどね。
聖心女子では益川弘如教授のところで学びます。益川先生は「子どもを取り巻く学習環境」について研究しています。「もっと幸せな子どもを増やしたい」「学校教育がイケてるものになってほしい」「もっと笑ってるお父さんお母さんが増えてほしい」。私のこのビジョンを実現するために、若い子とか先生とかお父さんお母さんにメッセージを届けることが、私の使命なんじゃないかと思っています。
これも様々な出会いのおかげ。人間、やりたいことが見つかると動けるんですよ。私、もう1回勉強始めます!
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