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アップル、クアルコムと苦渋の和解

米アップルは16日、2017年から続いていたスマートフォン(スマホ)の特許をめぐる米半導体大手クアルコムとの知的財産紛争で全面和解したと発表した。取引を再開し、2020年をめどに発売する「iPhone」向けに次世代規格5Gに対応する通信半導体を供給してもらう。米インテルからの調達がかなわず、アップルには和解しか選択肢はなかった。

「スマホ向けの通信半導体事業では収益化の明確な道筋がないことが明らかになった」。アップルとクアルコムが世界各国での訴訟の全面取り下げを発表した数時間後。インテルのボブ・スワン最高経営責任者(CEO)は5Gスマホ向けの通信半導体の開発から撤退すると表明した。

高速で遅延の少ない無線通信を目指す5Gでは、従来の携帯電話網では使われなかったミリ波と呼ばれる高い周波数帯の電波を使うケースが想定されている。通信業界に詳しい米シグナルズ・リサーチ・グループのマイク・セランダー社長は「幅広い無線通信の知識が必要で(現行の)4Gの通信半導体を手掛ける企業でも5Gへの対応は容易でない」と話す。

インテルは16年からiPhone向けに4G対応の通信半導体を供給しているが、主力はパソコンやデータセンター向けの半導体だ。スマホ分野には乗り気ではなかったとされる。セランダー氏は「インテルの5G開発が難航したことが、アップルとクアルコムを結びつけたのではないか」と推察する。

クアルコムは携帯電話で2000年代初めから存在感を増し始めた。同じ周波数帯の電波を使って複数の人が効率よく通信できる「CDMA」という技術では同社は基本特許の多くを持つ。その技術を使った3G規格の携帯通信の広がりとともに業界で強力な地位を築いた。

同社は最新の5Gについても規格策定の中心的な役割にある。同社の技術的支援を受けている中国や韓国勢は5Gスマホの年内発売を相次いで発表したが、アップルはiPhoneの5G対応時期を示せていなかった。

「今年分はもう間に合わないが、2020年にはアップルがクアルコムからiPhone向けに5G対応の通信半導体を購入することになる」と台湾のある関係者は日経新聞に明らかにした。アップルは既にクアルコムの5G対応の通信半導体を試験運用し始め、複数のサプライヤーに対しても試すよう要請していたことも分かった。

アップルはクアルコムのお膝元である米カリフォルニア州サンディエゴ周辺で無線通信技術者を積極的に採用するなど、通信半導体の自社開発も諦めたわけではない。ただ19年3月の株主総会ではティム・クックCEO自ら「今、半導体に投資したとしても市場に出るには3~4年かかる」と厳しい戦いになることを予測していた。

5Gスマホ向け通信半導体の内製に成功した中国・華為技術(ファーウェイ)は4月16日に広東省深圳市で開いた事業方針説明会で、外部の企業にも製品を供給する意向を示していた。ただ、安全保障を巡ってトランプ米大統領が同社を敵視する中、アップルにとっての選択肢とはなり得なかった。

クアルコムの特許使用料が不当に高いとして、引き下げを求める訴訟を仕掛けたのはアップルの側だ。18年秋に発売したiPhoneの最新モデルではクアルコム製品を完全に排除した。

クアルコムは対抗措置としてアップルを相手に知財侵害の訴えを世界各地で起こすなど両社の係争は泥沼化した。19年3月には米国際貿易委員会(ITC)の判事がクアルコムの主張の一部を認定し、アップルの一部製品の米国への輸入を禁じるよう勧告する事態にもなっていた。

19年から世界各地で普及が始まった5GはあらゆるモノがインターネットにつながるIoTの普及を促す。産業全体のあり方を変えるとみられる。中国の国家主導の普及策に対抗し、トランプ大統領は米国での民間投資を後押しする姿勢を表明する。5Gの普及ペースは国の産業競争力を左右しかねず、国家間の威信をかけた争いにも発展しつつある。

想定を上回る勢いで世界に広がる5Gの衝撃波は、アップルに裁判での結果を待つ時間的余裕さえ与えなかった。(シリコンバレー=白石武志、中西豊紀、佐藤浩実、台北=鄭婷方、堀越功)

 ▼5G用の通信半導体 4Gの次世代の高速通信規格「5G」に対応したスマホの心臓部分。電波の送受信を担うアンテナと頭脳であるプロセッサーとの間でデータをやりとりする。
 4Gでは使われなかった波長の短いミリ波帯での通信があり、その対応半導体が必要になる。この半導体をスマホ向けに小型にするのは至難の業だという。周辺のアナログ部品との連携も高度なレベルで必要になる。クアルコムは自社で開発するチップが多く、高い優位性をもつ。

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