鴻海・郭氏、中国との距離感焦点 台湾総統選に出馬へ

2019/4/17 18:58 (2019/4/17 20:39更新)
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【台北=伊原健作】電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長が17日、2020年1月に実施される次期総統選に、対中融和路線の最大野党・国民党から出馬すると正式表明した。鴻海は中国事業で成長。郭氏は中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とも関係が近いとされる。米中のはざまで微妙な立場にある台湾の総統となれば、中国との距離感が問われる。

台湾の次期総統選へ出馬を決めた鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長=ロイター

台湾の次期総統選へ出馬を決めた鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長=ロイター

国民党は17日、資金面で貢献した党員をたたえる「栄誉賞」を郭氏に授けるため、急きょ式典を開いた。出席した郭氏があいさつで「(総統選の公認候補者を決める同党の)予備選に参加する」と表明すると、会場内にどよめきが広がった。同日午前には幼少期を過ごした台北郊外・板橋の道教寺院を参拝し、「夢で台湾に平和と繁栄をもたらせとの神のお告げを受けた」と意欲をにじませていた。

国民党は7月をメドに公認候補を決める見通し。予備選にはトランプ米大統領にも似た過激な発言で人気を集める高雄市長の韓国瑜氏や、前新北市長の朱立倫氏ら複数の有力者による激戦になるとみられていた。ただ注目度では郭氏が一気にトップに躍り出た。

高度経済成長が一服した台湾では、所得格差の拡大や若者の低賃金など経済が主要な政治課題となっており、特に国民党の候補は中国との経済交流を促進する力量が問われる。これこそが郭氏の最大の武器となる。

「老朋友(古き友)」。郭氏は13年、中国南部の海南島で開かれた会合で、同席した習近平氏からこう声をかけられた。鴻海は1980年代から日米欧企業に先駆けて中国に進出。経済成長を急ぐ地方政府と手を携えて事業を拡大した。習氏が下積み時代を過ごした福建省で知り合ったとされ、郭氏の中国政財界との緊密ぶりを端的に示す。

ただ台湾世論は中国から経済的メリットを得たい一方、統一には反対論が多い。総統は米中間でバランスを取る能力が問われ、とりわけ重要なのが安全保障を頼る米国との関係だ。

郭氏はトランプ政権が誕生した約半年後の17年7月、米ホワイトハウスを電撃訪問した。トランプ氏と記者会見し、鴻海が米での液晶パネル工場建設に向け100億ドル(約1兆1200億円)を投じると表明。米国第一政策を推進するトランプ氏に機敏に対応した。

ただ鴻海の生産拠点や資産の多くは中国にある。シンクタンクの両岸(中台)政策協会の王智盛・秘書長は、郭氏が総統として中台政策を担えば「台湾と鴻海の利益相反が起こった際の対応が問われる」と話す。

郭氏は15日に台北市内で記者団に対し「国防で米国を頼るべきでない」と発言。「(米から)武器を買うのではなく、(米国に)人工知能(AI)などでの投資をすべきだ」と主張した。

中台の防衛力格差は大きく、台湾の安全保障は米国の関与なしには成り立たない。米国からの武器購入などを通じて何とかバランスをとってきた。米が台湾に武器を売却するたびに中国側は猛反発。郭氏は中国と平和を保ちながら台湾の独自性を守るべきだと主張するが、統一を目指す中国と台湾の間には根本的な利益の衝突がある。両岸政策協会の王智盛・秘書長は「安保問題への認識が欠けている」と懸念する。

台湾独立志向の与党・民主進歩党(民進党)の関係者は「郭氏の親中姿勢は選挙戦で弱みになる」とみる。

民進党も候補者選びが難航している。蔡英文総統が2期目を目指し出馬する方向で党内主流派は一致していたが、独立志向が強い頼清徳・前行政院長(首相)が3月に突如出馬すると表明した。主流派は頼氏に出馬を断念し蔡氏に譲るよう説得に当たったが決裂した。本来は今月17日に候補者を決める予定だったが、5月末ごろにずれ込む見通しだ。

民進、国民の二大政党に飽き足らない無党派層の支持を得ている台北市長の柯文哲氏も含め、先行きが読みにくくなっている。

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