2019年5月21日(火)

AIや映像企業、金沢に熱視線 人材・文化が引力に

スタートアップ
ネット・IT
北陸
2019/4/17 7:00
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IT(情報技術)分野の企業集積が手薄とされる金沢市に国内外のスタートアップ企業が熱視線を送っている。4年前の北陸新幹線開業で東京との行き来がしやすくなり、若い人材の豊富さや歴史・文化が残る町の雰囲気に関心が集まる。2019年は人工知能(AI)の開発や映像制作拠点を開設する動きが加速する。金沢市も小学校の旧校舎や町家を拠点に活用できるよう後押しする。

価値創造拠点として活用する旧野町小学校

12年に設立したAIシステムの開発を手掛けるネクストリーマー(東京・板橋)は5月をメドに、金沢市内に開発拠点を設ける。拠点のテーマは「AIによる金沢の課題解決」。まずは5人前後で発足し、1年で10人規模まで拡大して観光課題の解決に動く。

旅行に来た外国人などが話しかけるとAIが外国語で案内をしたり、日本人との会話を通訳で補助したりする仕組みを開発。タクシーや街中などへの導入を検討する。

進出するのが町家を集積したエリア「金沢AIビレッジ」だ。衰退が進んでいる町家を活用しようと市が今年度から整備を始めた。改修や設備導入などに1件最大1300万円の補助金を出し、クリエーターやAIエンジニアを誘致する。

ネクストリーマーの向井永浩最高経営責任者(CEO)は「町家の落ち着いた雰囲気で開発できるのは魅力的だ」と期待する。金沢大学出身の向井CEOは「金沢は大学が集まり、優秀な若い人材が集まりやすい」とも説明する。

市は廃校も活用する。中心市街地にある旧野町小学校を「価値創造拠点」(延べ床面積3500平方メートル)として改装する。オフィスや3Dプリンターなどを置く開発スペースを設けるほか、スタートアップ支援室なども開設する。

海外企業も動く。14年に米国のアニメ映画会社、ピクサー出身のアートディレクターらが立ち上げた米カリフォルニア州にあるトンコハウス。アニメのコンテンツ制作を手掛ける同社は3月、日本法人の拠点を東京・渋谷から金沢に移した。

金沢では米国のプロジェクトの一部を手掛けるため、米本社の外国人クリエーターを日本に派遣する機会が増える。同社の担当者は「文化や歴史、工芸に魅力のある金沢に拠点を置くと、感度が高い外国人材の確保にもつながる」という。4月末にも米国から2人のプロデューサーを日本に招く計画だ。

「県外の出身者にとっては人脈作りの場が重要だ」。ソフト面の重要性を指摘するのはフリーランスのAIエンジニア、伊井紀英さん(37)だ。昨年、福井県から活動拠点を金沢に移した。

伊井さんが活用する市の施設、ITビジネスプラザ武蔵では、入居する企業の人脈を活用した業種を問わないセミナーを積極開催。その後には人脈作りに生かす交流会もセットにする。

3月にはPRなどの専門家によるセミナーを実施した。伊井さんは「技術者は開発に集中しがち。顧客目線を養うための発想は勉強になった」と交流の重要性を語る。

不動産サービス大手のCBRE(東京・千代田)によると、金沢市のオフィス空室率は昨年12月末で6.2%と、新幹線開業前の14年末の半分以下。同社は「金沢駅前以外でもIT企業の新規開設がある」と分析する。保守的な風土で新産業の創出が遅れてきたとの指摘もある金沢だが、ハードとソフトの両面で若い人材の注目を集め始めた。

起業機運高めるチャンスに

金沢市がIT企業の誘致を急ぐのは、AIやあらゆるモノがネットにつながるIoTなどの技術革新を地域活性化につなげたいとの意図がある。先端技術に強い人材やスタートアップと、地元の製造業や大学が連携することで、新産業の創出や地域の課題解決に向けたチャンスが広がる。

山野之義市長が「よそ者、若者、ばか者が都市を変える」と言うように、県外からの「よそ者」は従来の産業構造を変えるきっかけになる。だが、新ビジネスを継続的に生み出すためには地域内で起業を促す雰囲気の醸成が重要となる。

石川県の人口10万人あたりの大学や高専などの数は京都府に続く2位。一方で、2017年度の大学発ベンチャーの都道府県別企業数で石川は15件で29位。15年度は27位、16年度は30位だった。

金沢大学の関係者は「県内の学生は安定志向が強い。優秀な学生は東京のスタートアップに就職する」と語る。外部の知見も積極的に取り入れ新たな発想でチャレンジを促す教育や環境づくりも重要となりそうだ。

(毛芝雄己)

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