2019年8月20日(火)

アマゾン、業務の効率化にAI活用を徹底(The Economist)

2019/4/16 2:00
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The Economist

米アマゾン・ドット・コムの幹部が毎年、自分の担当事業計画を「6ページ」にまとめる慣習は有名だ。あまり知られていないのは、そこで特に「機械学習をどう活用する方針か」を明確に示す必要がある点だ。同社経営陣によると、「あまり活用しない」という答えは歓迎されない。

米アマゾンの物流拠点ではロボットがアルゴリズムに基づき何千もの棚を適時、適切な場所に運んだり、並べ替えていく=AP

米アマゾンの物流拠点ではロボットがアルゴリズムに基づき何千もの棚を適時、適切な場所に運んだり、並べ替えていく=AP

人工知能(AI)の一つである機械学習は、大量のデータを分析して予測に活用できるパターンを抽出する。アマゾンが機械学習に着手したのは1999年、ジェフ・ウィルク氏が入社した時からだ。今やジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)に次ぐナンバー2のウィルク氏は、業務効率を上げるべく、社内のあらゆる仕事の進め方を科学者からなるチームに調査させた。各部門に彼らを投入し、常に仕事の進め方を各部門で自ら分析させ、改善を重ねるというパターンを定着させた。早い段階からこのサイクルに機械学習のアルゴリズムが加わった。最初に導入されたアルゴリズムは、各顧客に合わせて好みに合いそうな書籍を薦めた。ベゾス氏の野望が大きくなるに従い、アルゴリズムを活用して洞察力を強める重要性も高まった。

アマゾン以外のIT(情報技術)大手は、ことあるごとに自社のAI技術を自慢する。米フェイスブック(FB)は顔を認識できるソフトウエア、米アップルは音声技術「Siri(シリ)」、米グーグルの親会社アルファベットは自動運転車や囲碁AI「アルファ碁」といった具合だ。アマゾンの音声AI「アレクサ」はシリの競合だが、同社の機械学習の活用法は地味だ。アマゾンは、アルゴリズムを使って仕事の効率性を徹底して上げていくことが成功への道だと考えている。常に課題を探し出し、改善を重ねていくそのサイクルは、消費者向けAIと変わらない。つまり、まずサービスを構築し、顧客を集め、データを収集し、それらをAIが分析し学習を重ねていくというプロセスを、生身の人間では到底できない規模で繰り返していくということだ。

同社の巨大物流拠点「フルフィルメントセンター(FC)」を見れば分かる。北米大陸だけで100カ所以上、米国以外の世界各地に60数カ所ある。FCは、年商2070億ドル(約23兆1700億円)に上る同社のオンラインショッピング事業の心臓部だ。商品の在庫はここで保管し、注文に応じてここから発送する。米ワシントン州シアトル郊外にあるFCでは、梱包が原動機付き自転車のスピードでベルトコンベヤーの上を移動していく。激しい騒音だが、人はいない。アメフトの競技場1個分ほどの広さが柵で囲ってあり、中には縦、横、高さが約1.8メートルの「ポッド」と呼ばれる黄色い直方体の棚が何千と並ぶ。何百ものロボットがこのポッドの下に滑り込み、あちこちにポッドを移動させたり、並べ替えたりしている。ポッドには歯磨き粉や書籍、靴下が無作為に積まれているように見えるが、プロセスを誘導するアルゴリズムの視点では全てが理にかなって動いているらしい。

社内用語で「アソシエイト」と呼ぶ従業員は、この「ロボット・フィールド」を取り囲む柵の切れ間に配置されている。うち何人かはロボットが運んできたポッドの中から商品を取り出し、他の何人かは空いたポッドに商品を詰めると、ロボットがブーンと音を立てながらポッドを移動させ、保管する。アソシエイトは商品を取り出したり置いたりするたび、商品とその棚をバーコードリーダーでスキャンする。常にソフトによる追跡を可能にするためだ。

これらのアルゴリズムは、同社のロボット化推進の責任者ブラッド・ポーター氏が開発した。ウィルク氏のチームを「仕事の進め方最適化担当」とするなら、ポーター氏のは「FCの最適化担当」だ。ポーター氏の狙いは「ポッドギャップ」、つまりロボットがポッドを従業員の配置箇所に運ぶまで、その従業員が待つ空白時間を圧縮することだ。待ち時間が少なく、かつその回数が減れば従業員の無駄な時間が減り、FC内を商品が移動するスピードが上がり、顧客に商品を届けるまでの時間を短縮できる。ポーター氏のチームは絶えず新たな最善の手段を試しているが、実行には慎重だ。ロボット同士が渋滞を起こすと、物流拠点内は大変なことになるためだ。

260億ドルの売上高を誇る同社のクラウドサービス事業AWSも、機械学習を活用している。主な狙いは、いかに需要を予測するかだ。顧客企業のサイトに利用者が殺到して、処理能力が足りないと、利用者はエラーページを目にすることになり、売り上げを伸ばす機会を失う恐れがある。「『在庫切れです』は許されない」とAWS事業の責任者アンディ・ジャシー氏は言う。そのために同氏のチームは大量の顧客情報を分析する。アマゾンは顧客企業がサーバーに何を提供しているかを見ることはできないが、顧客のアクセス数やアクセス時間、アクセスしようとしてうまくいかずエラーになるなどしていないかは把握できる。これらのメタデータはFC同様、機械学習で作り上げたモデルで、いつどこで需要が発生するかの予測を可能にする。

AWSの最大の顧客はアマゾンで、同社の他事業が必要なのは需要の予測だ。AWSはそのニーズがあまりに強いため新たな半導体「インファレンシア」を開発した。ジャシー氏は、この半導体は同社が通常の業務をこなすための機械学習の出費を抑えると同時に、AWSの顧客開拓にもつながると言う。「少なくとも飛躍的にコスト削減と効率化が可能になる」と。声を認識し、人の言葉を理解するアレクサのアルゴリズムにも大きな恩恵を与えるだろう。

最近は同社の無人店舗「アマゾン・ゴー」でもアルゴリズムを使い始めた。数百ものカメラが上から買い物客を追跡し、視覚情報を3Dの輪郭に変換し、商品を取り扱う際の手や腕の動きを追う。客がどの商品を持ち帰るかを見届け、店舗を出たら、その客のアマゾンアカウントに請求書を送る。アマゾン・ゴーの責任者ディリップ・クマール氏は、システムは客の動きを追跡し、顔認識でアマゾンアカウントに連携しているのではないと強調する。入り口で顧客に自分のバーコードをスキャンしてもらうと、その顧客のアカウントを確認し、その客の3D輪郭の動きは全てそのアマゾンアカウントに帰属するとみなされる。何百ものカメラから得られる膨大なデータを処理し、顧客が何を持ち帰ったか分析する様子は、まさに機械学習をたたえるにふさわしい。ちなみに筆者は、どうあがいてもシステムをだまして商品をくすねることはできなかった。

FCでも人の動きを追跡、分析し始めた。無人店舗と同様、アソシエイトが何を手に取り棚に載せるかを記録する。狙いは小型バーコードリーダーをなくすことだ。手動でスキャンするのは時間がかかり手間だ。どの棚に置いてもシステムが追跡できれば理想的だ。最終目標はとにかく効率化であり、商品の流れのスピードを最大化することだ。「アソシエイトたちは、違和感はないと言っている」とポーター氏は話す。

アマゾンのデータ収集は、FBやグーグルのように各国政府の懸念の対象になっていない。アマゾンの顧客情報の収集・処理の狙いは、購入体験の改善だからだ。利用者と広告主という両方の顧客を満足させる難しさはない。FBやグーグルのSNSや検索機能を無料で使えるのは、顧客情報を得るために広告主が両社に費用を払っているからだ。アマゾンでは基本的に利用者と顧客は同一だ。むしろ規制当局の懸念は、ネット販売とクラウド事業での同社の独占ぶりだ。アマゾンの競争力の源は機械学習で、衰える兆しはない。(c)2019 The Economist Newspaper Limited. April 13, 2019 All rights reserved.

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