WTO逆転敗訴 誤算の外交戦略、見直しへ
韓国による福島など8県産の水産物輸入禁止措置をめぐる世界貿易機関(WTO)判決は日本にとって事実上の「敗訴」となった。2014年に判決が下った調査捕鯨に続く失敗だ。国際法を盾に突破口を開く外交戦略は見直しを迫られる。

WTOの上級委員会の判決は、日本産食品の安全性を認めた一審の判断を変えていない。韓国が日本に対する措置を強化する際に周知義務を果たさなかった点でもWTO違反を認めている。
しかし、輸入規制措置そのものがWTO違反だという肝心の主張が受け入れられなかった。一審は韓国の措置が日本を不公正に差別しており「過度に貿易制限的」だとした。上級委はその判断を取り消した。
上級委が一審の判決を引き継げば韓国は輸入禁止措置の撤廃を迫られ、応じなければ日本は関税引き上げなどで対抗できた。敗訴により日本はWTOという国際法に基づく交渉カードを失った。
捕鯨に続き主張通らず
河野太郎外相は12日の衆院外務委員会で「科学的な安全性はクリアしており、規制撤廃を引き続き韓国との2国間協議で求める」と述べた。同日、韓国の李洙勲(イ・スフン)駐日大使と面会し、規制撤廃を求めた。
韓国政府は現行の輸入禁止措置を維持すると表明した。WTOのお墨つきを得たとして協議要請に応じない可能性が高い。裁判で解決を図ったことが裏目に出た。

日本政府はWTOで一審通りに勝訴すれば、韓国に他の懸案でも国際法に基づく解決を迫るシナリオを描いた。元徴用工問題では国際司法裁判所(ICJ)への提訴も選択肢だが、慎重に検討せざるをえない。
日本は14年、南極海での調査捕鯨が条約違反だとしてオーストラリアが中止を求めた訴訟でも敗訴している。ICJで日本は科学的データを使って違反ではないと主張したが、判決は「科学的研究を逸脱している」と退けた。それが18年の国際捕鯨委員会(IWC)脱退表明につながる。
WTOで一審の判決が上級委で覆る例はある。政府関係者は「食品の安全性に関するデータが非常にしっかりしていて自信を持っていた」と語る。一審が日本の意見とほぼ同じだったことが誤算を招いた。
風評被害の対策が課題に
日本の逆転敗訴となった世界貿易機関(WTO)上級委員会の判断は、日本産食品の輸出に影を落とす。原発事故に伴う各国の輸入規制が足元で徐々に撤廃されてきたタイミングだけに韓国の勝訴は各国の動きに水を差す。風評被害の払拭は大きな課題となる。

原発事故後、54カ国・地域で日本産食品の輸入規制が導入された。現在も23の国・地域で規制が残る。ただ昨年7月に香港で一部の輸入停止が解除され、同11月には中国で新潟産のコメが輸入解禁になるなど緩和の動きが広がりつつある。
日本からの農林水産物・食品の輸出額は2018年まで6年連続で増加した。政府は19年に農林水産物・食品の輸出を1兆円に増やす目標を掲げる。WTOで勝訴すれば、それをテコにアジア各国への輸出規制緩和を働きかけようとしていた。
WTOの判断は日本産食品の安全性を否定していない。自民党は12日、国際的な風評被害を防ぐため、日本産食品の安全性を広く世界に発信するようWTOに迫るべきだとの声明を発表した。
被申し立て国が妥当な期間内に上級委の判断に従わない場合、申し立て国は一定の範囲で関税引き上げなどの対抗措置を講じることができる。