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揺らぐ専門知が招いたもの(大機小機)

自分が選んだ議長の辞任を促したと思えば、利下げを声高に叫ぶ。金融政策を巡るトランプ米大統領の無手勝流はとどまるところを知らない。「政治介入」「中央銀行の独立性の侵害」との批判は強くなるばかりだ。しかし、米連邦準備理事会(FRB)の側に問題はないのだろうか。

金融政策が依拠する理論的枠組みは近年、マネーの量を増やせば期待インフレ率が上がり、経済の成長と共に物価も上昇すると考える「インフレ目標政策」が中心だった。市場が政策の方向性を見誤らないようにするため、中央銀行政策メンバーによる金利予測を公表する手法も採用された。ところが、日米欧のいずれも思ったほどインフレ率は上がらず、政策を支える理論的枠組みに関する専門家の評価は揺らいでいる。のみならず、他ならぬ中央銀行自身も懐疑の目を向けるようになってきているようにみえる。

パウエルFRB議長は昨年8月、世界の中央銀行幹部やエコノミストが参加する恒例の米ジャクソンホールでの会議で、失業率とインフレ率の関係が従来のように単純ではなくなったとし、「インフレ率はもはや労働市場の引き締まりを判断する最初の、もしくは最善の指標ではないかもしれない」と語った。今年3月には後期印象派スーラの代表作「グランド・ジャット島の日曜日の午後」を引き合いに、中央に描かれた少女の花束を拡大して見るだけでは何の事か判然としなくても、ぐっと引いてみれば絵の全体像が分かるとの比喩を使い、政策予測の一助としてFRBが公表している「ドットチャート」に過度に注目しないよう警告した。

中立金利の専門家として名高いウィリアムズ米ニューヨーク連銀総裁も昨年10月、こんなことを言っている。「実際の金利が想定される中立金利よりずっと低い時には、中立金利は北極星のような役割を果たすが、いざ近づいてみるとぼやけて見える」。専門家たちがこれまで頼ってきた理論的枠組みにいかに迷いを感じているかが分かる。

「理論」が揺らいでいる以上、専門家に判断を白紙委任することに躊躇が生まれるのは避けられまい。トランプ流の乱暴な中銀批判の裏側には理論への不信が横たわる。金融政策の政治化は専門知の限界が招いた不都合な真実の一断面である。(三剣)

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