2019年5月24日(金)

秘蔵400年「曜変天目」脚光 世界に3碗の国宝を公開(もっと関西)
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関西
2019/4/12 11:30
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世界に3碗(わん)しかない国宝「曜変天目」がそれぞれ滋賀、奈良、東京の3施設で同時期に公開される。滋賀県甲賀市のミホ・ミュージアムで開催中の特別展では京都市の名刹、大徳寺龍光院(りょうこういん)が開創以来約400年もの間秘蔵してきた、曜変天目をはじめとする寺宝を初めて一挙公開。茶の文化、禅の精神の奥深さを体感できる。

国宝「曜変天目」(南宋時代、12~13世紀)=大徳寺龍光院蔵

国宝「曜変天目」(南宋時代、12~13世紀)=大徳寺龍光院蔵

扉開いた龍光院

スポットライトの光を浴びて、瑠璃色の夜空に瞬く星のような斑紋が茶碗の内側に浮かび上がる。「この青い色は太陽光以外ではなかなか出ない。展示にあたっては照明のLED(発光ダイオード)の光を工夫した」。ミホ・ミュージアム「大徳寺龍光院 国宝曜変天目と破草鞋(はそうあい)」展(5月19日まで)で公開中の「曜変天目」について、同館の畑中章良学芸部長はこう説明する。

「天目」は黒色などの上薬を用いた抹茶茶碗のこと。南宋時代(12~13世紀)に現在の中国福建省で製作された天目のうち、窯で焼成する際に偶然が重なって星空を思わせる神秘的な光彩を宿すようになったものを「曜変」と呼び、茶碗の最高峰に位置付けられてきた。完形の品は日本にしか伝わっていない。

13日から奈良と東京でも、曜変天目を公開する特別展が開幕する。奈良国立博物館で6月9日まで催されるのが「国宝の殿堂 藤田美術館展~曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき~」展。リニューアル工事のため2022年春まで休館中の藤田美術館(大阪市)が収蔵している日本や東洋の名品を紹介する。「曜変天目茶碗」や「玄奘三蔵絵」(国宝、鎌倉時代、14世紀)など約120件が出展される。

国宝 曜変天目(南宋時代、12~13世紀)=大徳寺龍光院蔵

国宝 曜変天目(南宋時代、12~13世紀)=大徳寺龍光院蔵

静嘉堂文庫美術館(東京・世田谷)では、約30振りの備前刀などを紹介する「日本刀の華 備前刀」展(6月2日まで)に、同館が所蔵する「曜変天目(稲葉天目)」を特別出展する。

ただし折に触れて目にする機会があるこれら2碗に対し、龍光院は観光客に門を閉ざしていることもあり、その曜変天目は文字通りの秘宝。ミホ・ミュージアムの熊倉功夫館長は「所有者が変遷した2碗と異なり、龍光院の曜変は約400年間、寺の蔵を出ることがなかった。これ自体が奇跡と言える」と指摘する。

龍光院は大名の黒田長政が父、孝高の菩提を弔うため1606年に建立した臨済禅の寺だ。実質的な開祖である江月(こうげつ)宗玩(そうがん)(1574~1643年)は堺の豪商、天王寺屋・津田家の出身。千利休、今井宗久と並ぶ三宗匠と称された津田宗及の次男で、津田家が蔵した天下の名物の一部が寺に寄進された。

江月のもとには小堀遠州や松花堂昭乗、狩野探幽ら当代一流の文化人が集って寛永文化(17世紀前半)の中核となり、多くの文物が寺に伝わる。

小堀月浦(げっぽ)住職は「400年なぜ蔵を開けなかったのか」との問いに「春に花が咲いて秋に実がなるまで6カ月かかる。龍光院では400年かかった」と語る。

「柿・栗図」のうち「栗図」(重要文化財、伝牧谿筆、南宋時代、13世紀、大徳寺龍光院蔵、5月6日まで展示)

「柿・栗図」のうち「栗図」(重要文化財、伝牧谿筆、南宋時代、13世紀、大徳寺龍光院蔵、5月6日まで展示)

茶禅一味を体現

展示会場で紹介されているのは茶禅一味を体現し、寺の法脈を物語る文物約200点。「春屋(しゅんおく)宗園頂相(ちんそう) 江月宗玩請(しょう)」(江戸時代、17世紀)は江月の師、宗園の姿を長谷川等伯が描いたと伝わる肖像画だ。曜変天目をはじめとする「油滴(ゆてき)天目」(重文、金時代、12~13世紀)などの茶道具、牧谿(もっけい)が描いたと伝わる「柿・栗図」(重文、南宋時代、13世紀)のほか探幽、遠州、昭乗らが筆を振るった多くの書画も目を引く。

会場には同寺に建つ堂宇の室内が一部再現されているほか、現在の龍光院の日々も写真で紹介され、非公開の境内の様子をうかがうことができる。会期中は寺で週ごと、月ごとに行われている座禅会や勉強会が、同美術館に場所を移して催される。熊倉館長は「お寺をここに持ってくることで展覧会を実現できた」と言い表す。

タイトルにある「破草鞋」は破れぞうりのことで、役に立たないものの例え。「禅の書物に登場する言葉。役に立つ、立たないとの発想を超えた無用の世界に人間のあるべき姿がある」と熊倉館長は説明する。小堀住職は「真ん中に仏法という幹があって、枝ごとに様々なものが掛かっている。曜変天目もその一つだが、大事なのは幹。その意味で曜変天目も破草鞋と同じではないか」と込めた思いを語る。

(編集委員 竹内義治)

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