産業革新へ5G始動、通信4社に電波 1.6兆円投資
次世代の高速通信規格「5G」が日本でも2020年春に始動する。NTTドコモなど国内通信4社は10日、総務省から電波の割り当てを受けた。基地局への投資を急ぎ、ドコモとKDDIは5年以内に全国の9割の地域でサービスを始める。高速で大容量の通信ができる情報基盤が産業のあり方を大きく変える。国際的な競争が本格化する。
ドコモとKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社が電波の割り当てを受けた。総務省は割り当てに際し、全国を10キロメートル四方の4500区画に分けてその50%以上に5年以内に基地局を置くこととした。それに対してドコモは97%、KDDIは93.2%、ソフトバンクは64%、楽天モバイルは56.1%をカバーする計画だ。

通信4社は基地局の設置などで、2024年度までに合計でおよそ1兆6千億円を投資する。4Gなどに使ってきた電波を転用する投資も合わせると5年間で3兆円近くになるという。
5Gは通信速度は4Gの最大100倍になり、情報伝達の遅れは10分の1に低減する。人工知能(AI)やあらゆるモノがネットにつながる「IoT」といったデジタル経済が急進し、さらに生活や産業に浸透する基盤となる。
5Gが普及すると、自動化技術がぐんと進む。例えば自動運転の実用化がみえてくる。無数のセンサーと大量の情報のやりとりが瞬時にできるようになる。運転者から見えない場所の障害物や道路状況の情報、人の動きなどをスムーズに解析でき、安定した自動運転が可能になるだろう。
遠隔操作の精度も格段に向上する。コマツは遠隔地から現場にある無人建機を操作して作業できるシステムを開発中だ。操作と実際の建機の動きのずれが認識できないほどわずかになるため、精緻な動きも再現できる。
さらに期待されるのは医療現場での活用だろう。大量の情報を送ることができるので、医師が患部の画像から腫瘍と正常組織を鮮明に区別することができ、遠隔手術をすることもできる。医師不足の解消にもつながるかもしれない。
日立製作所や東京女子医科大学は20年に複数の画像データを一元管理する手術システムを発売する予定だが、こうしたシステムに5Gを使えばさらに精度が高まる。
高精度な画像がデータの主流となり、スポーツ観戦やゲームなど娯楽業界も変化しそうだ。画像コンテンツ配信を観光にいかせば、訪日外国人客の体験型消費のさらなる拡大も見込めるだろう。
英調査会社のIHSマークイットは、5Gが日本の国内総生産(GDP)を今後15年間で計55兆円押し上げると試算する。経済を飛躍的に成長させる力を秘めているからこそ、国際競争は激しさを増す。
米国と韓国は今月、いち早く一般向けに5Gのスマホサービスを始めた。20年には日本のほか、主要20カ国・地域(G20)のうち、英国やドイツなど17カ国でサービスが始まる。中国は企業と政府、研究機関が一体となって開発にまい進する。幕は切って落とされた。