食と空き家、人呼ぶ財産 香川・本島で飲食・宿泊施設
島の食材や空き家を、観光資源として活用する取り組みが進んでいる。北欧家具販売のCONNECT(香川県丸亀市)は瀬戸内海に浮かぶ本島(同)で空き家を改修し、飲食店や宿泊施設の整備に取り組む。景観あり、歴史ありの島でありながら、高齢化で観光客を受け入れる体制は整っていない。島内で経済が循環する仕組みをつくり、地域資源を将来への財産に変える。

キッチンの床に敷かれた2002年の新聞。6時45分で止まった時計。階段に続く渡り廊下は、朽ちて崩れている。人が暮らしていた痕跡は家具や家電から見て取れるものの、人の気配は感じられない。人が住まなくなって長い月日が経過した、築100年近い空き家だ。
「島の外から来た人が交流できる場所にしたいですね」。CONNECTの高木智仁社長は、デンマークで建築を学んでいる学生2人を招いて、古民家の改修に取り組んでいる。3カ月の滞在中に改修計画を立て、工事を進めていく。将来的にはゲストハウスとして開業する。
空き家はもともと、島の郵便局長が所有していた。墓参りの際に帰ってきていたが、次第に使われなくなったという。一般的な民家の造りで2階建て。一部が増築されており、外には立派な外壁が残っている。
本島には笠島地区という、香川県で唯一国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている地区がある。古くから港町として発展してきた歴史を有し、しっくい塗りの白壁が特徴の建物が多く残っている。開けた海水浴場もあり、観光客にとっては景観も歴史もありと申し分なしだ。
一方で高齢化が進み体力的な不安があることから、既存の飲食店や宿泊施設の営業は予約を抑えるなど制限せざるを得なくなっているという。そんな状況を鑑みて、島の外から訪れる観光客が、気軽に滞在できる環境を整える。
島の食材を生かした飲食店も整備している。港の近くに、2018年11月から「本島スタンド」を開業した。もともとは島民が定食屋を営業していたが高齢を理由に閉店しており、観光情報を得ることができる島の入り口として改修を進めてきた。
島ではアスパラやにんにくなどの農産物、タコ、貝などの海の幸が豊富に採れる。岡山や香川に出荷されることが多く、島内で観光客向けに提供される場所や機会が少なかった。そのため3月には料理家を招き、島の食材を活用したメニューの考案を進めた。現在は季節のパスタとして、島の食材が使われる。
なぜ家具販売の企業が島の振興に携わるのか。周辺環境を含めたライフスタイルを提案する会社だから、と高木社長は答える。「生まれ育った場所に空き家が増え、場の活力が失われるのが残念だった。丸亀市の生活環境全体を良くしていきたい」。
メニュー考案会では「見るだけ」と言っていた島民が、エプロンを準備して調理を手伝っていた。島の人が緩やかに関わり、島の生活と観光が結びつく持続可能な形をめざす。(櫻木浩己)