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メルカリのスマホ決済参入、経営大学院教授が読み解く

グロービス経営大学院教授・嶋田毅

スマホ決済サービス「メルペイ」は2月からサービスを開始した
企業戦略に関わるニュースを、ビジネススクールで学ぶフレームワークを用いて読み解きます。今回取り上げるのは、メルカリが2019年2月、スマートフォン(スマホ)決済に参入したという記事です。グロービス経営大学院の嶋田毅教授がメルカリの取り組みを、「プロダクト・ライフサイクル(PLC)」に即して解説します(もっと学びたい方はこちら)

 マーケティングのフレームワークにPLCがあります。これは、ある製品・サービスは、「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」という4つの成長ステージを経て、そのステージごとに顧客のタイプや業界環境、取るべき戦略などが変わるという考え方です。

たとえばキャッシュレスという意味ではスマホ決済の先輩にあたるクレジットカードはほぼ成熟期にあり、顧客は「後期大衆(レイトマジョリティー)」になります。目新しさはそれほどなく、全体としては「旬」は過ぎつつある業界といえるでしょう。

スマホ決済業界は成長初期

 一方、今回のテーマであるスマホ決済業界は、このフレームワークに当てはめると、導入期を経て、成長初期に移ったくらいといえそうです。それに伴い顧客は一部のマニア層にとどまらず、賢明な「早期大衆(アーリーマジョリティー)」に移り始めています。

このステージでは、他社との差別化や新しい用途・顧客の開拓、強いブランドの確立などが重要な課題となってきます。また、可能であれば一気に2位以下を突き放し、市場での存在感を高め、高シェアをとることが望ましいといえます。

一般論としては、これより参入タイミングが遅くなると、競争はさらに激化してしまいますし、高シェアを奪う圧倒的なプレーヤーが登場する可能性もあります。

また、重要なパートナー(チャネルなど)を先発のライバルに押さえられるおそれもあり、よほどユニークに差別化しない限り、市場での地位確立の難しさなども生じてしまいます。

逆に、参入が早すぎると、うまくいけばブルーオーシャン(競合が少ない有望市場)をつくり、良い市場地位を確立できる可能性はあるものの、市場を広げる努力を自社のみあるいはせいぜい2社程度でやる必要があるため、これも必ずしも好ましくはありません。そもそも見込みが外れ市場が立ちあがらないというリスクもあります。

2年以上遅れての参入

 今回記事のメルペイのスマホ決済参入は19年2月です。16年にサービスを始めた楽天ペイやアップルペイに比べると2年以上遅れての参入となりました。

急がなかった理由としては、(1)スマホ決済が思った以上に浸透に手間取ったため、急ぐ必要性が小さかった(2)メルカリ自身がベンチャー企業であり、まずは母体のフリマ事業を確立したり米国における事業の赤字を減らしたりすることが優先だった(3)18年以前は政府による後押しが弱かった、などが考えられます。

とはいえ、18年に市場参入したソフトバンク系のペイペイが大々的なプロモーション戦略を行って話題になったこともあり、機は熟し、これより遅れると市場でポジションを築くのは難しいとの判断があったものと思われます。単にスマホ決済事業だけの問題ではなく、そこで得られるはずのビッグデータの活用とも絡み、同社の成長余力に影響を与えかねません。

そこでの重要課題は、競争が激化する市場の中でいかに差別化を行い、勝ち残るかです。市場で先行したのは楽天やLINE、アップルといったネットビジネス系でしたが、ソフトバンクはもちろんドコモやauなどのキャリア系や、セブン&アイグループなどの流通系もこの市場に参入もしくは参入予定です。「ライバルのサービスよりもメルペイを使おう」という何かしらの差別化要素がなければ、成功はおぼつきません。

現時点で、ライバルがまねできないメルペイならではの差別化といえるのは、自社のフリマ事業とのシナジーです。ダウンロード数7000万件を超えるメルカリのアプリがそのまま使える、フリマの売上金がそのまま使えるなどは、当然ライバルにはまねできない同社だけのメリットであり、価値を感じる人は少なくないでしょう。特にメルカリに慣れ親しんだ若い消費者にその傾向は強そうです。

業界3位以内に入る必要

 一方で、通信キャリアや金融機関と組むなどはメルカリのみの差別化要素とは言いにくい部分が大です。事実、auは楽天ペイとも組んでいますし、LINEペイはみずほフィナンシャルグループと提携しています。「コンビニなどいろいろな場所で使える」も、おいおいどのプレーヤーもできるようになるでしょう。

メルカリのフリマ事業とのシナジーも、たとえば楽天ペイの楽天ポイントとの連携に比べるとどのくらい強いのかという問題もあります。楽天のID数は1億以上と言われており、体力的にもメルカリよりは当然強いものがあります。アグレッシブな顧客還元で知られるソフトバンクグループとの戦いも容易ではないでしょう。

スマホ決済はクレジットカードとは異なり、「使い分け」をあまりしないのではという予測もあります(あくまで予測です)。もちろん、ちょっとした「得」を求めて何種類ものスマホ決済を利用する層も一定比率はいるでしょうが、多くの人は面倒を嫌がって1つ、せいぜい2つのスマホ決済で済ます可能性は確かに高そうです。となると、中長期的には業界で3位以内程度に入っておく必要がありそうです。

実は、すでに3月末にメルペイとLINEペイが業務提携するというニュースも流れました。それまでメルペイは非接触型の「iD」対応でしたから、QRコードにも対応できることは多くのユーザーに歓迎されました。

いくつかの「連合」に収束か

 このように考えると、現時点では多くの企業がスマホ決済市場に参入あるいは参入予定ですが、PLCが進むにつれ、いくつかの「連合」に収束しそうです。そしてそこで差別化要因となるのは、どの連合に属していて、どれだけ独自性のある利便性を提供できるか(人々が通常ものを買う場所で使用できて、非接触カード型にもQRコード型にも対応できるのは当たり前)、ポイントなどでどこまで還元できるか、ということになりそうです。

いずれも(特に後者は)「規模」が勝負となってきます。もちろんニッチプレーヤーとして残るという方向性もありますが、メルカリはそれは志向しないと思われます。

さて、PLCは一般的な傾向は示すものの、どのくらいのスピードでそれが進化するかの答えまでは教えてくれません。日本は先進国には珍しい現金重視のお国柄ですが、逆に言えばスマホ決済の伸び代は大です。国の政策の後押しもあって一気にスマホ決済が進むのか、それとも意外に進みは遅いのかは現時点では何とも言えません。

しかし、仮に前者だとしたら、成長期は一気に短くなることを意味します。その限られた時間にどこまで大胆な合従連衡の構想を打ち出し実行できるかこそが、顧客のロイヤルティーの醸成や、販売業者の混乱の低減などももたらしますので、大きく勝敗を分ける鍵となるのかもしれません。

プロダクト・ライフサイクル(製品ライフサイクル)についてもっと知りたい方はこちら(「グロービス学び放題」のサイトに遷移します)

しまだ・つよし
グロービス電子出版発行人兼編集長、出版局編集長、グロービス経営大学院教授。88年東大理学部卒業、90年同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経て95年グロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。動画サービス「グロービス学び放題」を監修

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