2019年5月24日(金)

大韓航空、揺らぐ経営 継承道半ばで会長が急逝

朝鮮半島
アジアBiz
2019/4/9 2:00
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【ソウル=鈴木壮太郎】大韓航空を傘下に持つ韓国財閥、韓進グループの趙亮鎬(チョ・ヤンホ)会長(70)が8日、死去した。相次ぐ不祥事でグループの信頼が失墜し、アクティビスト(物言う株主)から不透明なガバナンスの改革を突きつけられている非常事態のなかでの急逝となった。長男の趙源泰(チョ・ウォンテ)氏(43)への経営継承は道半ば。グループの針路はさらに視界不良となった。

趙亮鎬会長の死去で、ソウルの大韓航空には報道陣が詰めかけた(8日)

趙亮鎬会長の死去で、ソウルの大韓航空には報道陣が詰めかけた(8日)

韓進グループは持ち株会社の韓進KALを筆頭に、大韓航空などの企業群から成る。特に大韓航空は趙氏の長女が2014年に乗務員のナッツの出し方に怒り航空機を引き返させた「ナッツリターン事件」で知られる。死去した趙氏自身も18年にグループ企業の資金の使い方を巡る罪で起訴され経営が揺らいでいた。

グループ総帥の趙氏の死去が伝わった8日、かねて同グループの経営に不満があったアクティビストが早速動いた。韓国のKCGI(コリア・コーポレート・ガバナンス・インプルーブメント)が同日、韓進KAL株の買い増しを公示した。

KCGIは、証券アナリスト出身の姜成富(カン・ソンブ)氏が代表を務める韓国のファンド。創業家一族による不祥事続きの韓進グループは「攻め時」とみて、昨秋から韓進KALの株の買い占めに走り、1月には同社と傘下の大韓航空に経営改革案を要求した。

3月27日の大韓航空の株主総会では、亡くなった趙氏の取締役の再任が阻止される異例の出来事があったが、そこでも同ファンドが間接的な役割を果たしている。その後も着々と韓進KAL株の買い増しを進め、持ち株比率は昨年12月末の10.71%から8日時点で13.47%まで高まった。

防戦にまわる韓進グループに趙会長の死は早すぎた。グループ全体の後継者と目される長男の趙源泰氏は現在、傘下の大韓航空の社長を務めるが、継承作業が進まないうちに急逝してしまったためだ。韓国の大手財閥は創業2世から3世への世襲が進む。サムスンや現代自動車はすでに3世が事実上のトップ。だが、韓進グループは趙氏が直前まで韓進KAL、大韓航空の最高経営責任者(CEO)を務めていた。

グループの支配構造をみても、趙氏が韓進KAL株の17.84%を握る筆頭株主で、趙源泰氏は2.34%にすぎない。

韓進グループは8日、「非常経営体制」に突入したと発表した。当面、会長職は空席のままとし、グループの複数の社長による集団指導体制「社長団会議」で当面は懸案処理に対応しつつ、次期本命トップの長男である趙源泰氏の次期体制への移行を急ぐとみられる。だが先行きは不透明だ。

まずは趙源泰氏の経営者としての手腕が未知数であることだ。ある韓国のアナリストは「これまで経営は趙会長と専門経営者が担ってきたため、大韓航空の社長としての成果が見えない」と指摘する。その大韓航空は経営不振が続く。直近5年間の業績をみても17年を除いて最終赤字だ。趙氏の弟の会社で経営破綻した韓進海運への経営支援や、不動産など無理な投資が影響している。

創業家出身の会長が引責辞任したライバルの錦湖アシアナグループのような資金繰り面での問題はないとされるが、投資家からは負債の圧縮を求められている。大韓航空の負債比率はピークの16年に1000%を超え、18年は744%まで下がったものの、シンガポール航空などアジアの同業他社に比べて高い。

グループ全体の成長戦略もみえない。2月発表の中期経営計画では年間16兆5000億ウォン(約1兆6000億円)の売上高を23年に22兆ウォンに増やし、10%の営業利益率をめざす目標を掲げた。ただ具体策はなく、経営の透明性など株主の改革圧力を表面的にかわす内容にとどまっている。

趙氏の保有株の行方も焦点だ。現在、趙氏と長男の趙源泰氏、長女の趙顕娥(チョ・ヒョナ=44)氏、次女の趙顕●(日へんに文)(チョ・ヒョンミン=35)氏ら親族や役員らが持つ株式は28.95%。株の相続に最大50%の相続税率が適用されれば趙源泰氏は資金捻出のため、一部株式の売却を迫られる可能性がある。そうなれば安定株主比率は下がる。

それは韓進KAL株の買い増しを進めるKCGIにとっては有利な展開だ。韓進グループのガバナンスに批判的な大株主の国民年金公団を合わせれば、創業者一族との保有株の差も縮まる。

長男の趙源泰氏は来年、韓進KALの取締役の改選期も迎える。KCGIは来年の株主総会で取締役の再任に反対する可能性が高い。こうした読みが一般的で、韓進KAL、大韓航空の株価は8日そろって上昇した。市場もガバナンス改革に期待を寄せる。韓進グループは防戦を迫られる。

 急逝した韓進グループの趙亮鎬(チョ・ヤンホ)会長は傘下の大韓航空の3月の株主総会で取締役再任を否決された。アシアナ航空を中心とするライバルの錦湖アシアナグループも3月、創業者一族の朴三求(パク・サムグ)氏が会長職を追われた。韓国財閥の「常識」だった世襲経営は限界を迎えている。
 韓国では会社を「家業」ととらえる意識が強い。ポスコなど一部を除けば大半は世襲だ。だが、2世から3世への世襲が最後との見方が強い。家族経営は透明性を欠き、身内に甘くなることも明白になっており、アクティビストなど投資家が厳しい目を向けるようになったことが大きい。世襲で保有株を相続する際、莫大なお金がかかる点も理由だ。
 「家業」意識の薄い経営者も登場している。インターネット検索最大手のネイバーは創業者が専門経営者に経営を委ねた。オンラインゲーム大手ネクソンの持ち株会社NXCは創業者が身売りを決定した。バイオ製薬のセルトリオンはトップが2020年の引退と専門経営者への委譲を宣言している。

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