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高速バスウィラー、次世代移動でアジアに挑む

XaaSの衝撃

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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞
 次世代移動サービス「MaaS(マース)」で日本の自動車大手などが合従連衡に奔走するのを尻目に、一足先に海外への進出を果たした企業がある。高速バス運行のWILLER(ウィラー、大阪市)だ。アジアで企業連合を組み、技術開発と商用化を推進している。同社の取り組みから見えるのは「モビリティーの空白地帯」であるアジア市場が持つ可能性だ。

シンガポールでオンデマンドバス運行

赤道近くの都市国家シンガポール。ここでウィラーが提携企業とともに5月にも始めるのが、利用者がスマートフォン(スマホ)アプリで予約すれば、ルート上のどこでも乗り降りできる自動運転のオンデマンドバスだ。補助要員を乗せて半年ほど実際に乗客を運び、実証。商用化を目指して需要や改善点を洗い出す。規制が厳しい日本では難しい試みだ。

18年6月にシンガポール子会社を立ち上げ、中心部の複合ビルにオフィスを開設。今年1月以降は村瀬茂高社長を含め3人が常勤する。村瀬社長が目指すのは「アジアのどこでも使えるMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」。まず取り組んでいるのが自動運転バスだ。

具体的にはウィラーが車両を提供し、運行システムやアプリを開発する。自動運転の制御技術はシンガポール企業が、顧客や車両の管理など運用面は三井物産傘下でウィラーも出資する現地カーシェアリング大手のカークラブが担う。

こうした次世代モビリティーの開発をアジア各地でそれぞれの大手交通事業者らと組み進める。ベトナムではタクシーが主力のマイリングループと、日本の安全技術を載せた車両を運行予定。4月にはタクシーやライドシェアの配車アプリを始める。

台湾でも現地バス会社と連携

台湾では高速バスの国光汽車客運と、人工知能(AI)も活用し効率よく運行する相乗り車両の開発を目指し、まずはタクシーとの乗り継ぎ実験などを展開している。マレーシアやインドネシア、ミャンマーでも提携を進め、企業連合の形成を急ぐ。

なぜ日本ではなくアジアなのか。理由について村瀬社長は「モビリティーを日本で進化させるのは難しい」と指摘する。道路交通関連の法規制が厳格なうえ、各地を営業地盤として囲い込む鉄道やバス、タクシーなど既存の交通事業者が存在する。世界的に普及するライドシェアも日本では原則禁止だ。

アジアでは法規制はもちろん、道路インフラのほか地下鉄などの大量輸送手段も整備途上だ。自宅と学校や職場などを結ぶドア・ツー・ドアの移動手段としてバイクが重宝されているが、渋滞が激しく「排ガスや蒸し暑さもあり、決して快適ではない。見方を変えればモビリティーの空白地帯だ」(村瀬社長)。バイクから乗り換えてもらえるような市場があるとみる。

アジア各地で磨いた新たなモビリティーを他の地域へ持ち込み素早く横展開する。さらにスマホアプリ1つで検索から予約、決済まで自由に使えるようまとめ上げるのが、ウィラーの目指す「アジアMaaS」だ。

バスやタクシーのほか鉄道、レンタカー、カーシェア、自転車など様々なモビリティーを統合可能なMaaSアプリとして6月までに仕上げる。プラットフォームはアジアで共通だが、地域ごとの需要に合った移動手段を順次展開する。第1弾は7月にも日本の北海道東部で観光周遊向けに投入する。

膨大なビッグデータ、効率よく収集

「MaaSでは利用されたデータをためるのが重要だ」(村瀬社長)。既存の交通を経路検索でつなぐだけではうまみは乏しく、データから移動需要を掘り起こして新たな移動手段を投入、個人の消費喚起や企業へのビジネス提案につなげて初めて収益化できる。アジア全域から集まる利用データは原則としてシンガポールのクラウドサーバーに集約し解析していく考え。交通渋滞の緩和など社会課題の解決に貢献しつつ、膨大なビッグデータを効率よく収集できることが、アジア各地でMaaSを手掛ける隠れた利点だ。

ウィラーはIT(情報技術)企業としての側面も持つ。ウェブサイトでバス商品の予約を受付し販売するシステムを自社開発。他社に連携の輪を広げ、全国約90社のバス、さらに旅客船やホテルもカバーするシステムへと発展させた。

輸送手段から企画力、ITまで、MaaSに必要な機能を備えるウィラーには大手商社も一目置く。三井物産は100%子会社だったシンガポールのカークラブで18年8月、ウィラーのシンガポール子会社に対する第三者割当増資を行い提携関係に入った。現地では大手だが頭打ち感もあったカークラブにウィラーを招くことで「マーケティング力を高めサービス開発を加速したい」(三井物産出身の龍瀬智哉ディレクター)と期待する。

MaaS市場では新興企業の活躍が目立つ一方で、資本力のある自動車大手やIT大手なども商機を求めて相次ぎ参入している。村瀬社長は「利用者の深層心理を突いたサービスを作れるかどうかが勝負を分ける」と自信を示すが、真価が問われるのはこれからだ。

資本力や人材の数で劣るウィラーは、大企業にない俊敏さと決断力でアジアで覇を唱えようとしている。そのダイナミズムこそが、MaaS市場の将来性を示しているといえそうだ。(武田敏英)

ウィラー 高速バスの日本国内最大手。全国22路線で292便を毎日運行、年間計309万人(2018年)を運ぶ。ゆったりした座席や女性専用席などを設けるなど手厚いサービスで人気を博す。
 創業は1994年。村瀬茂高社長が「日本中の隅々まで簡単に移動できるようにしたい」との思いから起業。許認可規制に縛られるバスが旅行商品として売れば比較的自由に行程や料金などを設定できる点に着目、旅行会社として発足した。バスの自社運行は01年から。15年から京都府・兵庫県で鉄道も運行している。18年の連結売上高は203億円。

[日経産業新聞 2019年4月2日付]

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