米大統領、改めて利下げ要求 政治介入に危うさ

2019/4/5 17:30 (2019/4/6 0:03更新)
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【ワシントン=河浪武史】トランプ米大統領が人事権を行使して米連邦準備理事会(FRB)に金融緩和への圧力を強めている。自らに近い元実業家と経済評論家の2人を理事に指名すると表明、5日には「個人的にはFRBは利下げすべきだと思う」と明言した。過大債務や資産バブルの懸念が残るなか、政治の介入が強まり中央銀行の独立性への信認が揺らげば、金融市場にゆがみが広がるリスクがある。

「ハーマン・ケイン氏は優れた人物で、自分の友人だ」。トランプ氏は4日、ピザチェーン経営者だったケイン氏をFRB理事に指名する意向を表明した。ケイン氏は12年大統領選に立候補した経験もある共和党有力者で、現政権の熱心な支持者の一人だ。

7席あるFRB理事ポストのうち、空席は2つある。トランプ氏はその一つに保守系の経済評論家、スティーブン・ムーア氏を指名するとも表明済みだ。ムーア氏も大統領選で大型減税を立案するなどトランプ陣営幹部として働いた。ケイン氏もムーア氏も「FRBの利上げは間違い」などと表明し、トランプ氏と足並みをそろえる。

トランプ氏は主要ポストに次々と側近を充ててきたが、FRBだけは専門家を配置して独立性に配慮してきた。だがFRBは18年12月、株価下落を嫌ったトランプ氏が反対する中で利上げに踏み切った。トランプ氏は「常軌を逸している」と強く批判し、パウエル議長の解任すら検討した。パウエル氏は1月に利上げの一時停止を表明したが、20年の大統領選を前にトランプ氏は「0.5%の利下げを要求している」(クドロー国家経済会議委員長)。

トランプ氏は5日、ホワイトハウスで記者団に「FRBは(利上げで)米景気を大きく減速させた」と改めて批判した。利下げだけでなく「量的緩和にも動くべきだ」と主張した。

FRBは19年中の利上げを見送る考えをにじませるが、組織は一枚岩ではない。金融政策を決める米連邦公開市場委員会(FOMC)は正副議長ら理事7人(現在は5人)と地区連銀総裁のうち5人が投票権を持つが、「19年、20年とも1回ずつの利上げを模索する」(フィラデルフィア連銀のハーカー総裁)など強気な声も一部に残る。トランプ氏は自らの主張を反映できる側近を送り込み、金融政策への介入をもくろんでいる。

景気と物価の過熱リスクがなくなったわけではない。米経済は失業率が半世紀ぶりの水準まで下がり、株価など資産価格も再び上昇基調にある。FRBの金融引き締めを完全に封じれば、投資家らが再び過度にリスクをとるようになり、資産バブルが発生しかねない。

トランプ氏は財政政策でも拡張路線を取っており、財政赤字は近く1兆ドル(約110兆円)を突破する見通しだ。FRBが低金利を維持すれば、財政出動に歯止めが利かなくなる懸念もある。

「政治の圧力で物価の安定が失われるのは一瞬だ」。リッチモンド連銀前総裁のラッカー氏は警鐘を鳴らす。教訓に挙げるのが1960年代のジョンソン政権だ。大統領の利上げ停止の要請を受けて、FRBが1年以上も金融引き締めを見送ったため、インフレ率は2%から4%へ急伸した。財政赤字も戦後最悪の水準に達してドル不安が台頭し、金本位制を放棄する71年の「ニクソン・ショック」へつながった。

ケイン氏は過去に不倫やセクハラ疑惑が持ち上がり、ムーア氏も多額の税金未納が報じられる。両氏とも上院の承認が得られるか不透明だが、トランプ氏が異例な人事案を表明するだけでもFRBには強い圧力となる。

80年代のレーガン大統領もインフレ容認派の理事をFRBに次々と送り込み、「インフレファイター」で知られたボルカー議長を退任に追い込んだ。トランプ氏が20年に再選を果たせばパウエル氏を交代させ、政権の意向を忠実に反映する側近を充てる可能性もある。

主要中銀の幹部は「FRBは組織防衛のため、政権の意向を無視できなくなる」と指摘する。基軸通貨ドルを抱える米国で中銀の独立性への信頼が損なわれれば、世界市場への影響は甚大だ。

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