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豊島逸夫の金のつぶやき

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現場体験者が見る原油投機の実態

2019/4/5 11:04
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「原油市場に精通した」専門家やアナリストは多いのだが原油トレーダーは少ない。野球に例えれば、現役登録されているプレーヤーの数は減ったが、コメンテーターやコンサルタントの出場機会は増えているといえようか。

NYMEXフロアーにて

NYMEXフロアーにて

特に自らリスクを取って原油を売買するトレーダーは、今や「絶滅危惧種」に近い。ドッド・フランク法の影響で金融機関が自己勘定売買部門を縮小。特に原油価格の変動は国民生活を直撃するので、金融機関の投機的売買による乱高下がやり玉に挙がった。庶民との接点が薄い金市場は相対的に規制強化を免れた感もあることが印象的だ。原油市場内で常に売値・買値を唱え売買注文を受けるマーケットメーカーたちが退場すると、投機的価格変動が減るかと言えば現実は違う。市場の流動性が減り価格変動は増幅されてしまう。リスクを取るリスクテーカーが少ない市場は投機筋の格好の標的になるのだ。

このリスクテーカーの代表的存在が英語で言うところのスペキュレーター(投機家)であった。

歴史的視点で見れば、そもそもシカゴで育った商品先物市場は近郷の農家が収穫時の価格を先決めヘッジするために生まれたマーケットであった。そこではヘッジ売買の相手方(カウンターパーティー)となり、自己リスクで売買注文を受けるスペキュレーターの存在が必要とされた。彼らは自らをプロフェッショナルなスペキュレーターと家族にも誇りを持って語るほどだった。自分たちがいなければ農家の衆が困るとの自負があった。しかし、オプション取引の導入によりデリバティブ商品が続々開発され市場インフラも完備すると、単に価格変動を狙うサヤ取り投機的売買が圧倒的に増えた。それが規制の対象となるや、原油トレーダーたちはリスク回避を命じられ、原油市場特有の現先スプレッドの増減を狙う裁定取引に傾注する。しかし、市場参加者の多くが裁定取引に徹すると市場の流動性は枯渇する。更にトレーディング部門縮小の結果、多くの原油トレーダーが転職した。中東の政府系ファンドに「身売り」したトレーダーも少なくない。

それがトランプ大統領の規制緩和でよみがえるかと思われたが、一旦火を落とした溶鉱炉と同じく再生は容易ではない。そのコストを正当化する収益性も見込めない。

これが原油市場に「専門家」は多いが現役プレーヤーが少ない背景である。数少ない独立系原油ディーラーたちが石油輸出国機構(OPEC)総会のウィーン市内でサウジアラビアに招かれ「ミーティング」に参加することも恒例行事となっている。そこにはギルド的習性の名残も感じられる。

一方、実際の売買は取引所フロアから電子取引に移行した。高頻度売買の急激な成長により株・為替・債券、そして商品と「循環物色」する高頻度系トレーダーの参入も目立つ。彼らに原油の専門知識は不要だ。人口知能(AI)とチャートがあれば良い。相対的にうまみのある市場を探り当て投機マネーは回遊する。

これが原油価格「急騰・急落劇」の舞台裏である。

100ドル以上の3桁価格から30ドルを割り込む水準まで急落後、再び倍以上の急騰という価格乱高下は到底、需給分析だけでは説明できないボラティリティーだ。限界的供給増減が価格を決めるとはいえ、市場の構造的変化が価格変動を増幅させている面も無視できない。この実態は今後も変わらないだろう。

筆者はニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEXで原油・金先物売買のフロアトレーダーとして働いた経験があるが、OPECのタガが緩めば、価格主導権を取るのは投機筋ということを痛感している。

豊島逸夫(としま・いつお)
 豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・公式サイト(www.toshimajibu.org)
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuo.toshima@toshimajibu.org

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