2019年5月22日(水)

中国中車、壁に直面した海外事業(The Economist)

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The Economist
2019/4/2 2:00
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工業の町として栄えた過去があるなら、何十年も廃虚と化していた工場が真新しい近代的な生産拠点へと変身するのを歓迎しそうなものだ。ところが、かつての国営造兵廠(ぞうへいしょう)で生産されていたライフル銃で有名な米マサチューセッツ州スプリングフィールドでは、中国の鉄道車両メーカーの米国進出が壁に直面している。

スプリングフィールドで鉄道車両が生産されるのは初めてのことではない。2世紀前、英国からの輸入品に代替する初の米国産の鉄道車両がここで生産されていた。

中国中車が2017年に米国向けに初めて納品したボストン地下鉄の車両。だが海外展開が計画通り進まないため、中国市場に回帰することを検討中だ=AP

中国中車が2017年に米国向けに初めて納品したボストン地下鉄の車両。だが海外展開が計画通り進まないため、中国市場に回帰することを検討中だ=AP

機関車やその他の鉄道の車両メーカーの世界最大手である中国中車(CRRC)が2017年に同市へ進出したのは、米国での生産拠点を必要としていたからだ。以来、米国の雇用と国家安全保障を脅かす存在としてメディアから攻撃を受けてきた。中国中車は、昨年から米国に輸入する部品に対する関税で打撃を受け、最近も中国からの輸入品に課される関税の適用除外を申請したものの、却下された。米連邦議員たちは今、同社に対し連邦政府の補助金が投じられるのを阻止しようとしている。

■世界の高速鉄道車両の7割を生産するが

中国中車に敵意が向けられている原因の一つは、その規模の大きさだ。同社は、15年に中国の二大鉄道車両メーカーが合併して誕生した。中国の鉄道市場は世界最大規模を誇るが、中国中車はその中国市場で90%以上のシェアを握る。国内市場を既にほぼ独占していることから、さらなる成長を求めて海外市場に目を向けたのだった。

同社の董事長、劉化龍氏は、アフターサービス業務や車両組み立ての一部を手がける海外子会社を設立していった。まずアジアとアフリカに狙いを定め、それから欧州と米国へと海外展開を進めた。

中国中車は現在、世界で18万人を雇用し、その年間売上高は約306億ドル(約3兆3900億円)に達するが、そのうち海外の占める比率は1割程度だ。独ハンブルクの鉄道コンサルティング会社、SCIフェアケーアのマリア・レーネン氏の試算によると、中国中車は13~17年に世界の電車車両の44%、高速鉄道用に限れば同71%を生産した。鉄道事業関連の売上高は、欧州などの大手競合である世界2位の独シーメンスや3位の仏アルストム、カナダのボンバルディアなどの鉄道事業の収入をはるかに上回っている。

米国では特注仕様の車両が好まれ、他国で一般的な標準仕様よりも高い価格を請求できるため、市場としては特に魅力的だ。また、スプリングフィールドを拠点とする中国中車の子会社のジア・ボー社長によれば、米国では若者がかつてのように車を持たなくなっており、鉄道による移動への関心が強まっているため、急成長中の市場でもあるという。中国中車は14年以降、米国で地下鉄車両の大型契約を4件も獲得した。昨年12月には米国で生産した初の車両を納品した。

■魅力的でなくなりつつある米国市場

中国中車の戦略に対し、欧米の競合各社は危機感を募らせている。シーメンスとアルストムは両社の鉄道事業を統合させる必要性の根拠として、中国中車の海外展開が脅威だと主張していた。だが、この合併計画は2月、欧州連合(EU)域内の競争を阻害する懸念があるとして欧州委員会が却下した。

米国の貨物車両メーカーやその部品メーカー各社で構成するロビー活動組織「鉄道安全同盟」のエリック・オルソン氏によると、中国中車は信じ難いような低価格戦略を展開しており、加盟各社の商売をすべて奪い去る恐れがあるという。中国中車がオーストラリアに進出した際、そのような事態を引き起こした、と同氏は考えている。

加えて米国では今、労働力が不足しているうえ、近く保護主義的な「バイ・アメリカン」規定が発効するため、鉄道事業関連のメーカーは部品の7割を米国内で調達することを余儀なくされる。そうなると米国市場はもはや魅力的ではなくなってくる。実際、中国中車の競合である川崎重工業は、米国からの撤退も検討しているという。

中国中車が中国企業であることも事態を複雑にしている。米中貿易戦争は、改善しそうな兆しがみえない。また、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)が中国政府のスパイ活動に加担しているという疑惑(証拠は何ら公開されていない)は、中国中車を含むさまざまな中国企業に影響を与えている。

オルソン氏の考えでは、監視カメラを備えた中国中車製の鉄道車両に顔認証技術が導入されれば、中国政府が乗客個人を特定するために利用する可能性があるという。妄想にすぎないかもしれないが、中国中車が米国のサイバーセキュリティー関連の規則はすべて順守している、とわざわざ表明するほど現実味を帯びた懸念となっている。

■目標の海外事業比率も密かに断念

以上の要因が重なり、中国中車の海外進出計画は全く予定通りに進んでいない。最近ニューヨークの地下鉄車両の受注に失敗したほか、欧州でもほとんど結果を出せていない。それに比べればアフリカでの事業はまだ実績を上げている。しかし、国際的な貿易団体「鉄道ワーキンググループ」のハワード・ローゼン氏によると、中国企業と同じくらい好条件の融資が提供されるのであれば、アフリカの鉄道各社は欧米製の鉄道車両を購入したがっているという。ただ、欧米企業は、中国を除く富裕国が加盟する経済協力開発機構(OECD)の規定があるため、そのような好条件の融資を提示することはできない。

海外事業が順調に進まないことから、中国中車は中国市場に再び注力することを検討している。貨物車両事業については、近いうちに米国市場から撤退するかもしれないとしている。米銀大手JPモルガン・チェースのカレン・リー氏によると、中国中車は大型合併後の事業統合を進め、中国政府が課す対外投資額の上限を守るため、海外事業展開の計画をペースダウンさせている。リー氏によれば、同社は海外からの受注の割合を21年までに2倍の20%に引き上げるという目標をひそかに取り下げたという。

今後、中国景気が減速するのに伴い、中国政府による高速鉄道への投資拡大を見込めることから、中国中車はその高速鉄道の受注獲得に集中した方がよいと考えているようだ。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. March 30, 2019 All rights reserved.

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