2019年8月23日(金)

したたかクリード流、カンボジアの街のつくり方

2019/3/30 7:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

「転んでも決してタダで起きてはならない」――。クリード社長、宗吉敏彦がカンボジアで学んだ教訓だ。プノンペンの中心から北西に7キロメートル。12万6千平方メートルの土地を確保し、スタートさせた一戸建ての分譲プロジェクト「アラタ・ガーデン・レジデンス」ではとりわけひどい目にあった。

アラタ・プロジェクトでは売り出した480戸のうち7割が売れた(プノンペン)。

アラタ・プロジェクトでは売り出した480戸のうち7割が売れた(プノンペン)。

クリードがアラタの開発用地を取得したのは2014年5月。まだ広大なマンゴー畑を牛がのし歩いていた。下見をするにも舗装された道路すらなくトヨタ自動車のランドクルーザーでなければとても入り込めないような荒地だったが、宗吉はその土地を「これはいずれものになる」と押さえたのだった。宗吉の独特の嗅覚だった。

ところがすんなりとはいかなかった。宗吉が購入を決めた時点で開発予定地の外側を通る予定になっていた計画道路が、いざ土地を買ってみると、開発地の中を横切ることに変更されてしまったというのだ。日本ではあり得ない話だが、カンボジアではしばしばこうしたことが起きる。

幅40メートル、長さにして400メートル――。面積にして1万6000平方メートルと、サッカー場2つ分ほどの土地が一瞬にして削り取られる。全く理不尽なことだが、逆らってみても意味はない。「まずは譲ろう」。当初780戸だった開発計画を見直し、道路用地を避けながら737戸の計画に作りかえたのだった。

■道路から公園に

しかし、宗吉がやられっ放しであるはずがない。いったんはひき、とって返す。道路の敷設予定地を、ほぼそのまま公園にしてしまったのだった。もちろん暫定的な対応だが、「この国では政府の言うことはよく変わる」。

道路が通らなければそのまま公園として使い続け、仮に本当に道路を通すなら公園をつぶせばいい。常に柔軟に。これがこの国での正しい仕事の仕方なのだった。

曲折はあったが結局は宗吉の開発地選びは的を射ていた。18年春、開発地から2キロメートルのところに東洋最大級のイオンモールが建設されたことに加え、幹線道路から開発地までの道路を宗吉が自費で舗装したこともあって土地の価格はみるみる上がった。14年5月の取得時に1平方メートルあたり200~250ドル(約2万2千~2万7千円)だった地価は今では3倍だ。

商品設計もあたった。アラタ・プロジェクトでは全部で700戸以上の戸建てを建設する予定だが、大きく分けて種類は3タイプだ。

1つ目は「ショップハウス」と呼ばれる連棟式の戸建てで、店舗と住宅を1つにまとめたタイプで価格は16万~20万ドル程度。2つ目は「ツインビラ」というもので2戸の住戸をひとまとめにした日本ではテラスハウスと呼ばれるタイプで価格は22万~24万ドル。そして最後の3つ目が「リンクビラ」で連棟式の戸建てで9万~14万ドルだ。

想定外だったが「高い順に売れて行った」(クリード・カンボジア社長の江口崇)。住宅地の中央に広い公園があることが人気の理由の1つだった。金融機関などに勤める30歳代前半の子どもがいない共働き夫婦(DINKS)などが主な受け皿で、大卒の初任給が月200~250ドルからすると年収の何倍もする驚くほどの値段の家がどんどん売れたことになる。

■2、3世代が同居

しかし、これにはカンボジアならではの理由がある。2世代、3世代が1つの家にまとまって住むのだ。だからクリードが提供する家もフロアごとにバスルームやベッドルームがしつらえてある。同じ屋根の下でありながらいくつかの家族が各フロアで分かれて生活することができるわけだ。

こうなると1軒の家を買う場合でもポケットが1つではなく2つ、場合によっては3つも4つもあることが珍しくはない。クリードの強みはこうした中間層の生活スタイルを知ったうえでの商品設計としている点にある。

14年、牛が闊歩(かっぽ)していた荒れ野は今や憧れの新興住宅地。今年1月からは順次、竣工が始まり、20年春には500戸、同年末までには全戸(737戸)が竣工する計画だ。

販売も今のところかなり順調。現在737戸のうち480戸程度を発売、その7割が売れた。物件がすべて完成する20年末には全戸が売れる見通しで、「プロジェクトの利益率は25%程度」というのが江口の見立てだ。

アクシデントはアジアでのビジネスにはつきもの。しかし慌てず、郷に入れば郷に従い、そしてしたたかに稼ぐ。これがクリード流だ。=敬称略

〈シニア・エディター 前野雅弥〉

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