宇宙の暗黒エネルギーに新説
日経サイエンス
宇宙に膨大な量が存在する暗黒エネルギーの正体は、これまで多くの研究者が考えていたようなものではないのかもしれない──。万物を説明する究極理論の有力候補、「超弦理論」で世界をリードする研究グループがこんな予想を発表、論議を呼んでいる。

大胆な理論予想を発表したのは東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の大栗博司機構長と米ハーバード大学のカムラン・バッファ教授らの共同研究グループ。昨夏に論文が出て以来、世界の理論研究者の間で賛否両論が巻き起こっている。
宇宙は約138億年前の誕生以来、膨張を続けているが、膨大な物質が及ぼす重力の作用で、膨張速度は次第に低下していると考えられていた。ところが約20年前、実際には宇宙膨張は加速していることが判明。宇宙には重力を上回る斥力が作用していることがわかり、その斥力を生み出す未知の存在は暗黒エネルギーと呼ばれるようになった。
これまでの研究によると、暗黒エネルギーは宇宙のあらゆる場所に等しく存在し、そのエネルギー密度は宇宙誕生からはるか遠い未来に至るまで時間変化しない、つまり永久不変だと考えられている。
ところが大栗博士らの理論予想によれば、暗黒エネルギーの密度は時間とともに減少していくことになる。暗黒エネルギーの密度が時間変化しない場合、宇宙は永遠に加速膨張を続けるが、時間とともに減少し続ける場合、遠い将来には宇宙は膨張から収縮に転じる可能性がある。宇宙の運命は現在の推定とはかなり違ってくる。
「暗黒エネルギーの密度が時間変化するとすれば、宇宙膨張の加速度にどれほどの制限がつくのか、素粒子論にどんな影響があるのかなど、いろいろなことを考える余地ができて、それでたくさん論文が書かれている」(大栗博士)
大栗博士らの理論予想を受けて注目度が高まっているのが、国立天文台のすばる望遠鏡を使った広域宇宙観測の国際共同プロジェクトだ。すばる望遠鏡に取り付けた巨大デジタルカメラを使って膨大な数の遠い銀河を観測。その情報をもとに、暗黒エネルギーが永久不変のものなのか、それとも時間変化するものかを調べる。数年後に出る最終結果によって、大栗博士らの理論予想が正しいかどうかが判明する可能性が高い。
(詳細は現在発売中の日経サイエンス5月号に掲載)