FRBが新緩和策を検討 長期金利に上限、物価目標見直し

2019/3/26 17:47
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【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は景気悪化時に備えた新しい金融緩和の手法を検討する。利上げの停止で政策金利は歴史的な低水準にとどまっており、将来的な利下げ余地が乏しいからだ。長期金利を操作して低めに誘導する新たな緩和策を検討。2%の物価上昇率目標の見直しも議論し、早ければ年内に結論を出す。

FRBのパウエル議長は利下げの可能性について反論するが…(20日、ワシントン)=AP

FRBのパウエル議長は利下げの可能性について反論するが…(20日、ワシントン)=AP

26日の先物市場では、FRBが年内に利下げに転じると見込む割合が7割程度に高まった。年内の利下げ観測は22日に初めて5割を超えたが、市場では景気後退の予兆とされる「長短金利の逆転」が発生し、投資家は一段と弱気に傾いている。

「現時点で、金融政策をどちらかに動かす必要性を示すデータはない」。パウエル議長は20日の記者会見で利下げの可能性を問われ、ひとまず反論してみせた。ただ、22日にはアトランタ連銀のボスティック総裁が「次は利下げもありうる」と述べ、シカゴ連銀のエバンス総裁も24日に「景気が想定よりも下振れすれば、金融緩和があり得る」と指摘。FRB高官は景気悪化時の利下げを視野に入れ始めている。

実際、FRBは2015年から続いた利上げを休止するだけでなく、米国債などの保有資産の縮小も9月に停止すると決めた。当初は21~22年まで続ける予定だった資産縮小を大幅に前倒しして終了するのは、金融政策を引き締め局面から緩和局面へといつでも移れる状態にするためだ。

問題は金融緩和の手段だ。緩和効果が確実に見込める利下げは、その余地が乏しい。FRBは第2次世界大戦後の景気悪化局面で、政策金利を平均5.5%引き下げて経済の底割れを防いできた。足元の政策金利は2.25~2.50%にとどまっており、利下げだけでは次の景気悪化を食い止められないリスクがある。

第2の手段である量的緩和も万全ではない。FRBの保有資産量は現時点でも4兆ドル(約440兆円)と膨れあがったままだ。金融危機前は9千億ドルと国内総生産(GDP)比で6%にすぎなかったが、資産縮小を終了する今年9月末時点でも同17%と規模が大きい。FRBは保有資産の損失リスクを抱えたまま、次なる危機に備える必要がある。

新手法として検討するのは、金利操作の対象を短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利だけでなく、長期金利にも広げる案だ。

クラリダ副議長は2月下旬の講演で「政策金利がゼロに下がれば、長期金利に上限を設ける手法を採用する可能性がある」と言及した。FRBは第2次大戦時に長期金利に上限を設けたことがあるほか、日銀も16年に「長短金利操作」を採用し、長期金利をゼロ近辺に誘導している。

否定的な意見は残るが、マイナス金利政策や、資産購入を社債などに広げる案もある。

2%のインフレ率を目指す物価目標も修正を検討する。FRBが検討するのは「平均物価目標」で、景気が悪化局面から回復局面に入っても、一時的に2%を上回る物価上昇率を容認する考え方だ。FRBは15年末、物価上昇率が2%に到達する前に利上げを再開したが「平均物価目標」を採用すれば、金融緩和が長期化して市場の期待を高めやすくなるとみる。

ただ、長期金利の操作や物価目標の見直しで、利下げほどの緩和効果を得るのは難しい。市場全体の金利水準が下がったのは、少子高齢化で住宅ローンなどの借り入れ需要が減少し、生産性の低迷などで潜在成長率そのものが高まらないことが要因だ。財政政策や構造改革で経済全体の「体温」を高めなければ、利上げや利下げといった中央銀行の政策余地は確保できそうにない。

FRBは6月にシカゴで大規模な討論会を開き、国内外の政策当局者や経済学者らを招いて金融政策の枠組みを議論する。低金利時代の新たな緩和手法を確立するため、各界の知恵を結集する狙いがある。FRBは19年後半に集中協議して早ければ年内に結論を出す。

日銀や欧州中央銀行(ECB)もFRBの議論を注視する。08年の金融危機時、FRBはゼロ金利政策や量的緩和政策をいち早く決断し、日欧に先駆けて景気悪化から抜け出した。日欧中銀には「自国景気の長期停滞は緩和競争に出遅れたからだ」(日銀幹部)との自己批判がある。次なる緩和競争で先手をどう打つか。利下げ局面への転換はまだ先だが、主要中銀は早くも臨戦態勢だ。

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