ピンの抜き差し パットの名手に迷いなし
編集委員 串田孝義
13年ぶりに日本勢が開幕3連勝を飾ったゴルフの女子ツアー。第2戦のヨコハマタイヤPRGRレディースで通算10勝目を挙げたのが2季ぶりの賞金女王奪回をめざす24歳の鈴木愛だ。
総距離6228ヤードとツアーのなかでは比較的短く狭いコースで、3日間通してフェアウエーキープ率は48%と50%に届かなかったが、グリーン上では1日の平均パット数27と堂々のトップ。徳島県出身の鈴木にとって同じ四国の大会でずっと相性はよく、開幕前から「グリーンが早く仕上がっていて、思ったように転がってくれる」と語っていた、手応えそのままの結果を出した。
文字通り、パットで制した。最終日の15番パー5、ピン奥6メートルのバーディーパットをジャストタッチで沈め、右拳に何度も力を込めた迫力に、同組の20歳、渋野日向子は震え上がるような思い。「1打にかける集中力が試合では本当に違った。あのシーンをしっかり目に焼き付けることができてよかった」

3日間を通して最難関となったのが8番パー4。残り150ヤードの第2打地点から壁のような急坂に向かって打ち上げるショットが要求される。初日、2日目とも左斜面のラフにティーショットを打ち込み、2打目はグリーンをとらえきれず、3打目も初日はカラーからの5メートル、2日目は2.5メートルと微妙な距離を残した。
そこをいずれもパターで決めてナイスパーセーブ。右拳をぐっと握りしめた。鈴木が常日ごろ口にする「クラッチパット」。1日の流れを左右し、勝利をたぐり寄せる勝負どころのパットはどこかと振り返ってみると、予選2日間の8番ホールのパーセーブがキラリと光る。
■鈴木「一度もピンに当たらず」
「抜くべきか、抜かざるべきかそれが問題だ」。今年施行されたゴルフの新ルールで、旗ざお(ピン)を差したままのパッティングが可能になり、今まで通りピンを抜くか、差したままで打った場合のどちらが有利かが論争となっている。
羽田空港で行われた女子ツアーの開幕前イベントの後、鈴木は「周りの様子を見て対応します」と慎重だった。ただ、こうも語っていた。「試しに(ピンを立てたまま)打ってみたけれど、一度もピンに当たらなかった」。ツアー一のパットの名手ならではの感想だ。ジャストタッチでカップに落とし込むから、ピンにぶつかって入るようなラッキーはほとんど感じない、というわけ。
3試合を終えた女子ツアーの状況を見ると、長い距離のファーストパットはピンを立てたまま、だいたい5~6メートル内は抜いて打つ選手が大勢のようだ。なかにはイ・ボミ(韓国)のように「お先」の短いパットも立てたまま打つ選手もいるが、これもその方に入りやすさを感じたというより、あくまでプレーファースト優先の意識から。

昨季の平均パット数で鈴木に次ぐ2位につけた勝みなみは「ピンを抜く抜かないで入りやすさは関係ないと思う」と一笑に付す。ヨコハマタイヤPRGRの初日、ボギーが出た直後の5番ホールからピンを立ててパットを打ち、5、6番で4メートル、7番で3メートルのバーディーパットに成功。これも「ずっと入らなかったので、ちょっとした気分転換」だという。
■勝「風が強いときは抜く」
ピンが立っているとカップが狭く見えるという選手もいるが、「祖父と回っていたころは早く終えるために抜かないでプレーしていた。練習グリーンには普段から小さいピンが立っているから気にならない」。それでも「風が強いときは抜く」と勝。風が強くピンが傾いていると、ピンとカップの隙間の狭くなった側では球が入りにくく、揺れるピンにはじき出される可能性も指摘されているが、20歳の感覚派はまったく違う理由を挙げた。
「旗がばたばたする音が気になる」
カップの直径は108ミリとゴルフボール2個半分の大きさ。カップの円に対し、正面からだけでなく、左右斜めの角度から球を転がし落とし込むのがパッティングだとすると、ピンを立てる立てないで生じる感覚的な違和感はあるにせよ、物理的な有利不利はほとんどないといってよいのではないか。もちろん、ごくたまに下りで強めに打った球がピンに当たって入る幸運はあるかもしれない。ならば慣れさえすれば、立てたままがよいという解釈もあり得るだろう。
もっとも、ラインを消してピンに積極的に当てていく打ち方が優位だとなってくると話は違ってくる。これはゴルフ競技の本質と関わるからだ。ただ、日本の女子ツアーを見る限りそういった選手は今のところ見当たらない。
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